2024年12月22日( 日 )

流通業界、成長必須の宿命が招くもの(後)ニトリ、島忠のM&A

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 企業は成長し続けなければならない。市場からの支持を得て、売り上げ規模を拡大することによって利益を産み続けられるためである。加えて、成長はそこに集う人々に自信や誇りを産み、競争の糧である効率化や革新に大きく影響する。成長が止まるとそれらの循環も停止し、やがて企業組織全体に悪影響がおよぶ。
 政府が景気拡大に躍起になるのも基本的には同じ理屈であり、成長がないとあらゆる競争力と革新が生まれない。

求められる革新性~コロナで変化する小売業の現場

 企業の生存には、継続的な規模の拡大が必須と述べたが、規模に加えて革新性が求められることはいうまでもない。
 サービス業といわれる小売業界の世界は人との関わりが密である。顧客は売り場で十分なサービスを受けることが当然と考えるが、この場合には顧客が期待するサービスは無料であり、しかも十分満足できるレベルということになる。
 問題は、小売業態が今やそれを十分に提供できないことだ。そこで、人のサービスに代わるものは何かという課題が、小売業に突きつけられている。

 実際のところ、店舗現場では一斉に実証実験が始まっている。アマゾンの無人店舗やAI搭載ショピングカートはその典型だが、我々の身近なスーパーマーケットやディスカウントストアでも精算や発注という店頭作業が本格的に自動化され始めた。

 イオン(株)ではIT・デジタル・物流に3年間で5,000億円を投じ現体制からの変革で新たな成長を目指すとし、(株)トライアルホールディングでは「リテールAI」をコンセプトに、AI技術を導入した「スマートストア」と呼ばれる新しい店舗形態を出店しているほか、昨年9月にはサントリー酒類(株)、(株)日本アクセス、日本ハム(株)、フクシマガリレイ(株)、(株)ムロオといった、店舗、卸、メーカー、物流の共同による業界初のリテールAIプラットホームプロジェクトを発足。他業種よりIT・デジタルへの対応が遅れている流通業界で横断的な取り組みを推進している。

 注目すべき点は、多くの企業が一斉に、しかも本格的に導入実験を始めたことだ。「塩と氷」の関係ではないが、傾向や事件という触媒が加わると、事態は急激に進行する。ここでいう傾向とはネットの急激な一般化であり、事件とはコロナだ。小売業の現場はコロナという事件が終息しても元に戻ることはなく、引き続きより大きな変化が進行するだろう。

業態の垣根を取り払うM&A

 先ごろ、(株)ニトリと(株)島忠のM&Aが話題になった。もともと家具がスタートの両者だが、今日ではニトリはSPA型経営、島忠はコンベンショナル型と業態が異なっている。その島忠にはDCMホールディングス(株)も食指を伸ばしている。ドラッグストアや総合スーパー(GMS)などの国内外での規模拡大の企業統合はますます加速している。

 そしてM&Aは、近似業態同士に留まらない。アマゾンのようにあらゆる異業態を取り込むM&Aも、今や普通に見られる時代である。単なる立地確保や財務的なメリットを狙った企業統合ではなく、できることはすべてやり続けるというM&Aこそ新たな道なのかもしれない。

 AI化やM&Aはいわば足し算の戦略である。引き算の経営ではもはや生き残りは見込めない時代なのである。

▲クリックで拡大

(了)

【神戸 彲】

(前)

関連キーワード

関連記事