2024年12月22日( 日 )

ストラテジーブレティン(263)~コロナパンデミックの経済史的考察(5)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2020年10月22日付の記事を紹介。


(4) 財政・金融節度という呪文からの解放

財政・金融健全性神話の誤り露呈

 各国政府は従来、財政の健全化を“錦の御旗”とし、財政赤字の抑制を最重点政策課題としてきた。たとえばユーロ圏参加国は、財政赤字対GDP比3%以下、政府債務対GDP比60%以下という厳しい財政規律が求められてきた。しかし、今回のショックで経済活動そのものが止まってしまった。コロナショックは天災であり、放置されれば大恐慌は必至である。できることは何でもすべきとの緊急性の認識が共有され、各国の政策当局が足並みをそろえて財政政策の禁じ手が解禁されたのである。

 米国の2020会計年度(19年10月~20年9月)の財政赤字が前年度比3倍の3.1兆ドル、対GDP比では戦後最大の16%に膨らんだ。連邦政府債務も27兆ドル弱と国内総生産(GDP)比で126%まで膨張し、第2次世界大戦直後を超えて過去最大になった模様である。国際通貨基金(IMF)は先進国の政府債務対GDP比は126%と第2次大戦時120%に匹敵すると予想している。またEUは初めて、7,500億ユーロの財政資金を復興支援に投入することを決定した。

総需要抑制を引き起こした、アカデミズムとメディアの180度誤ったアドバイス

 MMT、シムズ理論(FTPL)など、財政を有効活用する経済理論と政策は、大多数のエコノミストの反対にあい、実現は困難であった。しかし、奇しくもコロナパンデミックにより財政のけた外れの拡大は不可避となった。

 これまでこの超積極的・拡張的財政は禁じ手であるというものが、学者エコノミスト、メディアを支配してきたが、その根拠は乏しい。(1)政府を破産させる、(2)ハイパーインフレを引き起こす、(3)金利が急上昇する、(4)通貨が暴落するなどが問題点として指摘されてきたが、日本が世界最悪の財政赤字国と批判されてきた過去十数年間、そうした問題は何1つ起きていない。

 日銀による2%の物価目標の達成は絶望的である。また長期金利は上昇するどころか、相変わらずゼロ近辺の低水準で推移している。さらに財政赤字が通貨の信認低下につながり、凄まじい円安になるという意見に反し、円高傾向が続いている。つまり拡張的財政金融政策に対する批判は根拠が乏しいどころか、大きく誤った議論だったといえる。

ケインズ以来の有効需要理論が一段と求められる時代である

 そもそもコロナ感染が発生する前の世界経済は、「物価低下圧力=需要不足」、「金利低下圧力=金余り」という2つの根本的困難を抱えていた。需要不足はインターネット・AI・ロボットによる技術革命が生産性を押上げ、供給力が高まっていたために引き起こされた。金利低下は企業の高利潤(生産性上昇によって企業が獲得した付加価値)と家計の過剰貯蓄が購買力を先送りしているために引き起こされた。よって財政と金融双方の拡張政策で余っている資金を活用し、需要を喚起することが必要であった。コロナパンデミックを契機に、遊んでいた資本と供給力が活用されれば、景気はコロナ感染前より良くなるはずである。

(つづく)

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