元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書(26)パナマ運河鉄道改修工事
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日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏
日本帰国後最初の南米プロジェクトはパナマ運河鉄道改修工事プロジェクトであった。業務本部南米首席として日本からのミッションに同行。長期パナマ出張を命じられたのだ。
日本ミッションは新幹線の設計にS技師長と従事したM技師を団長に鉄道通信専門家、車両専門家など5名で構成されていた。日本ミッションに同行するパナマ向け機上で、5年前に、日本勤務をあきらめ、現地での経験を積むことを優先しようと決断し、ブラジル・リオに赴任したことについて思いをめぐらした。ブラジルでは公官庁向けビジネス確立に努力した。ブラジルを含む南米でのビジネスに関与した経験が、今回のパナマ向けプロジェクトビジネスでも役立つことを強く認識し、ブラジルに駐在してよかったと確信したのであった。
在日パナマ大使館の協力を得て、現地では元大統領顧問の人脈も活用し、在パナマ日本大使館にも協力を要請するなど完璧を期した。競争相手は英国鉄道で、日本側関係者は日本の新幹線の実績から、英国に勝てるとの見立てがあった。
日本ミッションでは、パナマ運河鉄道関係者にプレゼンテーションを実施し、よい感触を得られた。パナマ側関係者の訪日と新幹線試乗などを提案し、あわせて運河の大西洋側コロン自由貿易地域への日本からの協力も提案した。さらにニチメン本社から海外業務管掌のK専務、N取締役・業務本部長もパナマへの出張を願い出て、全社的な応札体制を敷いた。筆者が入社した当時、ニチメンはインド鉄道の電化工事を現地のエンジニアリング会社と協力して落札した。また、筆者も関与した戦後初のアフリカ・ガーナ向け大型鉄道修復工事を落札していた。そのときの鉄道工事関係者にもパナマ向け工事への協力を依頼した。必勝を期し、筆者は本件フォローアップの為、パナマに3カ月、長期出張し、パナマ現地店との売り込み交渉に全力を投入した。
しかし、ふたを開けたら英国が金利ゼロの長期借款を提供しており、融資条件で日本側は不利となり、最終的に英国に敗れた。筆者も関与したイラク軍用バッテリー工場建設プロジェクトでも英国クロライド社が延べ払い金利ゼロを提供したため、日本側が敗れた。英国への2度目の敗退だった。
プラントビジネスで融資金利をゼロにするのは本来の国際慣例上あり得ないことである。国際慣例を無視した英国の行動には驚きを禁じ得なかった。しかし、このとき、筆者がパナマ出張で入手した情報が基になり、日本政府はその後、パナマガンセンター向けに医療機器を初めて輸出することになった。加えて、パナマ教育テレビ局向けにテレビ資機材を輸出することにも成功した。禍を転じて福となしたのである。入札情報をいかに入手し、それをいかに活用することにより、パナマ向け初の大型無償援助を実現することに成功したか。次回、その詳細について説明する。
<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)関連キーワード
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