2024年12月22日( 日 )

香港ファンドが東京ドームとの勝負開始~狙いは、ボールパーク化と命名権か(前)

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 プロ野球の“聖地”である東京ドームと、その筆頭株主である香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントの対立が先鋭化している。オアシスは(株)東京ドームの社長ら3人の取締役を解任すべく、臨時株主総会の招集を請求した。
 読売ジャイアンツという人気球団を抱えているのに、まったく生かせていない東京ドームに対し、オアシスにはどのような狙いがあるのだろうか。

オアシスは、来年の定時株主総会に社長候補を提案

 オアシスは、1月時点の大量保有報告書ベースで東京ドームの株式を9.61%保有しており、東京ドームに対して運営の改善など5項目をこれまで提案したが、経営陣らとの対話要求は拒絶された。オアシスは、現経営陣や取締役会が非効率的な経営を続けていると指摘し、長岡勤社長と社外取締役・森信博氏(元(株)みずほコーポレート銀行副頭取)、秋山智史氏(元富国生命保険相互会社社長・会長)を解任するよう求めた。

 オアシス創業者で最高投資責任者(CIO)のセス・フィッシャー氏は10月22日、オンラインで記者会見を開いた。オアシスが臨時総会で求めているのは、3人の解任のみで、新たな社長候補の提案はしていない。 

 ブルームバーグ通信(10月22日付)は、会見の模様を以下のように報じた。

 〈フィッシャー氏は「次の経営陣を提案すると、そこに話が集中してしまう。今回はマネジメントの経営責任を問う議論をしたかった」と意図を説明した。(中略)来年の定時株主総会では豊富な経験で会社を先導できるような取締役を提案したいと述べた。〉 

 オアシスは、12月中旬に開かれる東京ドームの臨時総会はあくまで前哨戦であり、本番の来年の定時株主総会では、社長候補を立てて真っ向勝負で挑むと宣言したのである。

 オアシスが指摘している点は、一言でいえば、人気球団の読売ジャイアンツのホーム球場という“お宝”といえる資産を有していながら、その価値を引き出していないということに尽きる。

 19年のレギュラーシーズンの観客動員数で総入場者数が300万人を超えた球団は、ジャイアンツ(302万人)と阪神タイガース(309万人)のみ。パ・リーグ首位の福岡ソフトバンクホークスは265万人。

 東京ドームは、それほど魅力的なコンテンツを抱えているにもかかわらず、20年1月期まで4期連続で営業利益率が低下している。オアシスは、東京ドームの経営陣は経営努力をしているのか、とおかんむりなのだ。

 東京ドームの21年1月期の通期業績は、新型コロナウイルス禍によるコンサートの中止やプロ野球公式戦の観客数制限などが響き、180億円の損失を見込む。オアシスは、コロナ禍による深刻な影響を改善の好機ととらえて、大規模な改革策を実施するために東京ドームの経営権を握ることが目的であり、意気軒高なのである。

スタジアムからボールパーク化の流れ

 東京ドームの最大の悩みは、施設の老朽化である。1988年に開場し今年で32年を迎えた東京ドームは、すでに旧式な野球場となっている。

 今、野球の本場アメリカでは、野球場の呼び方が「スタジアム」から「ボールパーク」へと変わってきている。競技重視の意味合いが強いスタジアムに対して、ボールパークはそれに加えてエンターテインメント性に注力していることが特徴だ。

 広島東洋カープの本拠地であるマツダスタジアムは、日本で初めてボールパークとして楽しめる球場を目指したことで知られる。バーベキューやテラスで野球の観戦を楽しむことができ、おいしい食事をとりながらチームの応援ができる席や、寝ころんで観戦できるシートなど、さまざまな楽しみ方を提供し、あまり野球に興味がなかった人にも「なんとなく楽しそう」と感じさせることに成功した。

 弱小球団だったカープが強豪チームに躍進したことには、ボールパーク化により、関東においても「カープ女子」など多くのファンを獲得したことが影響している。

 北海道日本ハムファイターズの本拠地は、札幌ドームから北海道・北広島市の新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」に移転する。すでに建設は始まっており、23年3月の開業予定だ。野球場と公園やテーマパークを一体化させた国際競争力を有するライブ・エンターテイメントタウンとして「アジアNo1のボールパーク」を謳っている。

 このようなボールパーク化に完全に取り残されたのが東京ドームだ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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