「後出しジャンケン」のニトリが勝利~DCMとの島忠争奪戦の顛末(3)
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(株)ニトリホールディングス(以下、ニトリ)とDCMホールディングス(株)(以下、DCM)による(株)島忠の争奪戦では、島忠がDCMと一度結んだ経営統合の合意を撤回し、より好条件を提示したニトリに乗り換えた。 北海道発祥の2社による異例な買収劇となった。DCMによる友好的なTOB(株式公開買い付け)が進んでいたなか、「後出しジャンケン」のニトリに軍配が上がった。
首都圏進出を狙うDCMが仕掛けたケーヨーの買収
DCMの成長戦略の柱はM&Aにある。さらなる規模拡大を目指して、業界6位の関東地盤の(株)ケーヨー(千葉市)のM&Aを仕掛けた。DCMは2016年4月5日、ケーヨーと経営統合すると発表。株式交換でケーヨーを完全子会社化する方針で、17年4月までに契約締結を目指し協議するとした。
DCMによるケーヨーの買収の最大の目的は、悲願としてきた関東地方への本格進出にあった。DCMは全国に655店舗を展開しているが、東京、千葉、埼玉、神奈川の首都圏には20店舗しか出店していなかった(16年12月1日現在)。ケーヨーの買収は、最大の市場である首都圏に拠点を築くことができるかという試金石だった。
しかし、DCMの久田宗弘社長(当時)は17年1月5日、「ITシステムや人事統合などに負担がかかる」として、ケーヨーの完全子会社を断念すると発表した。
その代わり、ケーヨーが実施する69億円の第三者割当増資をDCMが引き受け、DCMは発行済み株式の19.29%を保有する筆頭株主になった。しかし、ケーヨーを完全子会社化して、業績拡大につなげる成長戦略は挫折した。
DCMは今年に入り、売上高首位の座を(株)カインズ(非上場、埼玉県本庄市)に奪われた。20年2月期の売上高はカインズ4,410億円に対して、DCMは4,373億円。首位から転落したショックは大きかった。
20年3月1日、久田宗久社長が会長兼CEO(最高経営責任者)に就任し、ホーマック創業家出身の石黒靖規副社長が社長に昇格した。
ホームセンターの再編の旗手として、M&Aに取り組んできたDCMは、首都圏攻略に再度挑戦し、島忠に買収を仕掛けたが、土壇場で大逆転となり、ニトリに「油揚げ」をさらわれた。DCMは首都圏戦略の練り直しを迫られることになった。
ニトリ、33期連続の増収増益
「お、ねだん以上。ニトリ」のCMのキャッチフレーズで、ニトリは快進撃を続けてきた。ニトリHDは、20年2月期の連結売上高は6,422億円、営業利益は1,095億円で、33期連続の増収増益を達成した。
その原動力になったのが、圧倒的な価格競争力。「安くないと買い物は楽しくない」ということが、似鳥氏の買い物観だ。ニトリは小売店であるが、その実態は企画製造業という業態であり、原材料の調達から製造・物流・販売まで一貫して自社で行う。ファッション業界でユニクロが先鞭をつけたSPA(製造小売業)の家具版だ。人件費の安いベトナムとインドネシアに生産拠点を置き、生産コストを切り下げ、中間の物流コストを極限にまで圧縮して安さを実現した。
ユニクロやニトリの成功に刺激されて、最近はどこもSPAモデルをうたっているが、「SPAイコール利益」と錯覚している企業が少なくない。SPAは確実に利益を生むというものではなく、SPAが利益をもたらすのは、商品を売り切ったときである。商品が売れ残ったら儲けは吹き飛んでしまう。
従来の流通形態は、リスクを分散するために製造→卸→小売と分業化されていたことに対し、自社でリスクをすべて取って行う業態がSPAである。そのため、生産したものを売り切れば、多額の利益を得ることができるが、その反面で売れ残れば損失は大きく、ハイリスク、ハイリターンであることは事実だ。ニトリはSPAに成功したゆえに、33期連続の増収増益という快挙を達成することができる。
ニトリの株式市場の評価は高く、その株式時価総額は2.4兆円。ユニクロの(株)ファーストリテイリング(8.8兆円)、(株)セブン&アイ・ホールディングス(2.9兆円)、イオン(株)(2.5兆円)についで、小売業界第4位だ(11月13日終値時点)。
(つづく)
【森村 和男】
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