2024年12月04日( 水 )

自社が培った価値を基に 職人・技術者集団を目指す

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(株)イチデン

大手と渡り合える職人・技術者集団を目指す

空港の気象台
空港の気象台

 航空施設、高速道路、教育施設などの公共的な施設から、発電設備など専門性が高い施設までさまざまな電気工事で実績を積んできた(株)イチデン。

 イチデンの誕生は、中市貴博氏の父で現会長・和博氏が扶桑工業(株)から独立を求められ、1967年に創業したことがきっかけで、すでに53年の歴史を有する。75年に中市電設(株)として法人設立し、96年に現商号に変更した。

 今世紀に入ってからも、2014年に資本金を2,000万円に増資し、ちょうど令和元年の最初の日である19年5月1日に現代表取締役社長を務める貴博氏へと代替わりをして今に至っている。

 貴博氏は大学を卒業後、世界を見たいと考え、バックパッカーとして世界をまわってきた。帰国後、旭日電気工業(株)の福岡支社長と面談した際に、「実家に依存してはいけない」と厳しく叱咤されたことに「このように叱ってくれる人はいない」と感銘を受け、同社に入社。同社で営業職として実績を上げ、関東など他地域への転勤を提示されたものの、中市氏にはいずれ父(当時社長)・和博氏の会社を承継するという思いがあったことから転勤を断り、約15年、一貫して九州地域で営業に従事しキャリアを積んで人脈を広げてきた。そして、父親の誘いを5年待たせた2010年に、貴博氏はようやく決心を固めた。

 イチデン入社前に同じ電気設備工事業界に勤務していた貴博氏。入社して間もない時期から後継の社長にという声はあったものの、貴博氏はまずやるべきことは自身の足で歩くことだと考えた。常務取締役として販路を拡大するという目標を掲げ、入社後の9年間、営業活動に力を注いだ。

 さらに貴博氏は、自社がもつべき強みを再考し、職人を自社で抱えることで全国規模の大手とも勝負できることに気づいた。そこで、会社を「職人・技術者集団」にすることを目標に定め、職人を徐々に増やしていき、現在では10年の貴博氏の入社時と比べ職人数は4倍に増えた。そのおかげもあって、売上は貴博氏が入社した当時の5倍以上に増えた。

時代の変化を踏まえ 1人ひとりの話をよく聞く

 どの業界においても職人の高齢化が進むなか、中市氏は先を見据えて若い職人を採用し、育てることに尽力している。在籍する職人の8割が20~30代であり、彼らの平均年齢は30代後半であるという。同業他社の職人のなかには電気工事の仕事が合わないと辞めていく者もいるが、同社ではこの10年の間に採用を大幅に増やしているにもかかわらず、離職者をわずか数人に留めている。

 同社は、どのようにして社員の満足度を高め、離職率を抑えているのか。その秘訣を中市氏に聞いたところ、職人1人ひとりの話をよく聞くことだという。

 若い職人を採用していることもあって、大半が職人として初めての勤務となる。職人の教育に関して中市氏は、指導担当の年配の職人が現場で育った時とは時代も気質も異なっていることを踏まえ、ベテランに対して、新人を「なぜこのようなことができないのか」と叱るのではなく、責任を自覚させるとともに、業務を理解させる指導をするよう、意識変革を求めている。また、現在はスマホなどで気軽に写真を撮れるようになっているため、新人に対しても、現場でわからないことがあれば画像を撮影してわからないことを先輩に積極的に質問して知識をつけるように話している。

 中市氏が職人の教育において念頭に置いているのはまさに「ゆでガエル」理論の援用といえる。意識するのは、彼らに対して急に厳しい業務を与えるのではなく、徐々にハードルを上げて慣れさせていくことだ。経験を積んだ職人たちは、以前よりもずっと少ない労力・時間で同じ成果を上げ、厳しい業務もこなせるようになっており、頼もしい限りだ。

社員全員で自分たちの社訓を

 中市氏は、社員の考えを会社運営に反映させるための試みの1つとして、社訓の変更に取りかかっている。社員に対して「人に喜ばれることは何か」とヒアリングを行い、そのなかで出てきた「感謝」に関するもの、「協調性」皆で議論を行って、秋ごろに定める予定という。

 社訓は往々にして、創業者などが定めてから時間が経過した後に、その理念などが時代や事業内容と合致しなくなるなどの理由で、社員から普段あまり意識されないものとなることがある。しかし、社員が自分たちで社訓を生み出すと、自社の価値、強みと真剣に向き合う機会となり、常日頃から意識をして業務に取り組むようになるはずだ。
いかにスムーズに次世代へと継承するか

 多くの組織において、創業者は営業力・技術力・指導力などにおいて突出しているため、往々にしてワンマン経営になること多い。組織としての課題が表面化するのは、ワンマン経営が続いた後に、違うタイプの人物が社長に就任するか、組織が大きくなって1人で把握しきれない状況になった時だ。トップダウンに慣れた社員の意識転換が課題となる。

 イチデンでは、創業者から次世代への継承という課題に関して、スムーズな移行を実現している。中市氏が実行したことは主に2つ。1つ目は、社員に「限界意識」をもたせて、各々の成長を図ること、2つ目は意思疎通を図ることだという。

 1つ目に関しては、たとえば、社員の経費に関する裁量権を拡大させている。営業職が担当する取引先を招いてともに食事をし、感謝の気持ちを伝える機会を定期的に設けることにより、社員にやりがいを感じさせている。中市氏は「支店のなかに支店をつくる」と表現しており、社員1人ひとりの自立と成長を促していることは間違いない。2つ目に関しては、先述したように、社員1人ひとりの話をよく聞くことだ。

 自社の未来像について中市氏は、職人の受け皿となり、他社から「イチデンに頼めば必ず必要な職人を手配してくれる」という体制を構築することが目標だと話す。現在はいわば会社の「幹」をつくっている段階と捉える貴博氏。今後より強固な根幹へと育っていくのが楽しみだ。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:中市 貴博
所在地:福岡市博多区浦田1-5-21
設 立:1975年2月
資本金:2,000万円
TEL:092-513-9656
URL:http://www.ichi-den.co.jp


中市 貴博 氏<プロフィール>
中市 貴博
(なかいち たかひろ)
大学卒業後、旭日電気工業(株)に入社し、一貫して九州で営業経験を積む。2010年に創業者・現会長の中市和博の呼びかけに応じて(株)イチデンに入社、常務取締役を経て19年5月、代表取締役社長に就任。趣味はゴルフ、海外旅行。

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