ストラテジーブレティン(266)2021 年の景気拡大前に、投機化する米国金融~日本株式の相対優位鮮明に~(中)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は2020年11月17日付の記事を紹介。
(2)2021年の3つのたしかなこと、景気回復はたしかだが…
景気回復はたしか、しかし大きな不確実性
2021年の展望に関してはさまざまな憶測が飛び交い、明確なシナリオは立てられないが、少なくとも3つのほぼ確実なことが想定できる。これをベースに市場の趨勢を考えてみたい。
第1にたしかなことは、21年は世界経済回復年になるということである。4つの要因が指摘される。
(1)コロナ感染沈静化
(2)堆積した欲望と貯蓄(ペントアップデマンド)
(3)世界的財政金融支援
(4)イノベーション加速(ネットデジタル、新エネルギー、脱中国サプライチェーン構築)
である。中国の圧倒的なけん引力
なかでも、コロナ感染を完全に制圧した中国の「圧倒的なリード」がはっきりしてきた。IMFによる21年の経済見通しは、コロナ前の19年対比で、中国+10.3%、米国-1.3%、欧州-3.5%(独-2.0%、仏-4.3%)、日本-3.1%、と中国が突出して世界経済をけん引する見通しである。
中国のGDPは米国の3分の2であるが、製造業の国民所得に対する比率は29%と米国の11%の3倍であることから、製造業の市場では米国の2倍の規模がある。商品市況、国際貿易などモノの動きでは中国が圧倒的プレイヤーなのである。この中国の鋭角回復(20年+1.9%(前年比)、21年8.2%(同))が世界経済の機関車であり、その恩恵が日本経済におよんできた。
空前の投資資金
第2にたしかなことは、超金融緩和の下での空前の投資資金の存在である。米国のMMFには4.6兆ドルという空前の待機資金が積みあがっているが、有利な投資対象が見当たらなくなりつつある。クレジット・リスクプレミアムは大きく低下しており、限界に近い。各国の長期金利も米国を始め歴史上最低になっており、債券投資はリスクとなっている。
米政策、米中関係、エネルギー政策、すべてが見えない
第3にたしかなことは大いなる不確実性である。まず米国でトランプ氏からバイデン氏へと政権が移行し、米国で成長ゲームのルールチェンジが行われるが、バイデン政策の輪郭が見えない。
民主党の左派主導による多くの政策アジェンダは、企業増税・キャピタル課税増税・ウォール街規制強化・グリーンニューディール・インフラ投資などで、その多くは実施されないとの観測もあるが、わからない。
株式市場が牽引車となったトランプ政権までのポリシーミックスが、財政牽引の大きな政府へとシフトすることは長期的に見て望ましいと考えられるが、それが打ち出されれば市場へのショックは一時的には大きくなるだろう。
次に、米中関係もどうなるかわからない。トランプ氏の対中政策をバイデン氏がすべて踏襲するだろうか。しかし、トランプ政権の対中政策はそもそも大きな矛盾をはらんでいた。中国を敵視しながら、カギとなる産業分野で米中合作を維持し続けていたのである。
その象徴はアップルモデルである。中国のハイテクの台頭は、アップルがスマホのほぼ全量を中国で生産し、それを起点に巨大なハイテク産業集積が中国で建設されたことに起因している。このアップルの中国依存のサプライチェーンには、ほぼ手が付けられていない。
加えて、テスラが上海に年産20万台クラスのギガファクトリーを建設し、中国から世界へと輸出を始めた。中国はEVでの世界覇権を握るために、テスラには100%子会社の設立を認め、EVの産業基盤を一気に拡充しようとしている。
内燃機関の負のレガシーをもつ自動車生産国である日本、米国、ドイツを一気に引き離そうとしている。このアップル・テスラの米中合作のビジネスモデルを維持し続けるとすると、トランプ政権の一面的対中敵対路線は維持できなくなる。中国の巨大な市場を無視できない欧州と日本は、中国市場争奪をめぐって、米国と対立や緊張をひき起こすかもしれない。
さらにエネルギー政策の転換も見通しにくい。米国のパリ協定への復帰はたしかだとしても、世界最大の産油国である米国が容易に政策転換を成し遂げられるとは考えにくい。多くの雇用を抱える中西部産油地帯と調整が必要であろう。
(つづく)
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