「これまで通り」を突き詰めて 厳しい時代に挑む
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(株)かさの家
否応なく変わっていくこれからの観光業
新型コロナウイルスの影響で、インバウンド客や国内観光客が大きく減少。以前は参道を埋めつくすほどの人の波が押し寄せていた太宰府天満宮だが、2020年の秋を迎えても閑散とした光景が続いている。こんな太宰府は初めて見ました―というと、「太宰府だって、もとから大勢の観光客がきていたわけじゃないですよ」と(株)かさの家の不老安正代表は笑う。
かさの家は太宰府天満宮の参道や境内に並ぶ梅ヶ枝餅を商う老舗。博多駅や福岡空港など「福岡の玄関口」はもちろん、百貨店や物産展など全国に太宰府の風情を届けている。
太宰府市を訪れる観光客の数は、1970年には約400万人。92年には約799万人まで増えるが、その後漸減を続けて2004年には約567万人まで減少している。バブル崩壊以来の長期的な不況の影響だ。05年には九州国立博物館が開館し、観光客数は増加に転じる。その後、韓国・中国を中心としたアジア諸国からのインバウンド客の引き付けに成功し、17年には念願の1,000万人超をはたす(約1,054万人)。いよいよ念願の着地型観光への移行を……という矢先のコロナ禍だった。
「これからは、否応なく観光の在り方が大きく変わっていく。今回のコロナ禍を人の身体にたとえれば、『転んで足をくじいた』と思っている人もいるかもしれないが、実際は骨折したくらいの重傷ですよ。骨折となると、治ったとしても完全に元通りに行かない場合もある。リハビリしながら、新しい歩き方を身につけていかなきゃいけない」。(公社)福岡県物産振興会会長、太宰府観光協会会長などの要職を務める不老社長の言葉は重い。では、「新しい生活様式」ならぬ「新しい観光のかたち」を、太宰府は見つけていかなければならないのだろうか。いや、それは違う―というのが不老社長の考えだ。
「人を呼びたいと思うと、誰でもすぐ『何か新しいことをしなきゃ』と特別なイベントを開催したり、奇抜なキャンペーンをやろうとする。でも、それできてくれたお客さんが、どれだけ『もう一度太宰府に足を運ぼう』となりますか。イベントのお客さんは、イベントにしか興味がない場合がほとんど。あくまで一過性の対策にしかならない」。
地元・太宰府を見続けてきた目
では、どうすればいいのだろうか。そこで生きてくるのが、長く太宰府の街に関わってきた不老社長の経験と人脈だ。
もともと、不老家は先祖代々太宰府天満宮の門前に住んできた古い家柄。福岡藩祖・黒田官兵衛(如水)が一時太宰府で暮らしていた際に縁があり、以来福岡藩から扶持を受けていたのだという。さらに遡ると、秦の始皇帝から不老長寿の霊薬を探すよう命じられた方士・徐福が蓬莱山を求めて日本を訪れたことに由来する。不老社長は「そこまでは本当かどうかわからない」と笑うが、佐賀の金立には徐福がこの地を訪れたという言い伝えも残っている。
不老社長自身も、ジャンルを問わず幅広く活躍を続けてきた。まず挙げるべきなのは、ライオンズクラブでの活動だろう。1982年の太宰府LC入会以来要職を歴任し、2009年からは国際理事。11年は東日本大震災復興支援対策本部長を務め、12年にはフォーラム委員長として、福岡市でOSEALフォーラム(東洋東南アジア)を開催した。
白眉といえるのが、16年に第99回ライオンズクラブ国際大会を開催し、ホスト委員会委員長を務めたことだろう。開催5日間で海外120国の約1万3,000人を含む約3万8,000人が福岡を訪れ、1万2,000人が参加する盛大なパレードが街を練り歩き、頭上では航空自衛隊のブルーインパルスが青空に桜の絵柄を描く記念飛行。とくにブルーインパルスは、離発着の多い福岡空港近くでの飛行は困難と思われていただけに、不老社長のイニシアチブと実行力に改めて注目が集まった。また、ライオンズクラブの新たな活動として(一財)ライオンズLCIFを設立し、理事長として活動している。
さらに、「若いころはこれに情熱をかけた」というクレー射撃では国体・全日本選手権優勝、アジア大会(ソウル)では団体銅メダル、ソウルオリンピック出場を成し遂げたオリンピアンだ。この道では、今も後進の指導のため労を惜しまない。そうしたスポーツの普及・発展の貢献が表され、このたび、文部科学大臣より「令和2年度生涯スポーツ功労賞」を受賞した。
「これまで通り」を丁寧にやり抜く
その不老社長が考える、太宰府観光のあるべき姿はじつにシンプルだ。
「これまでやってきたことを、丁寧に、丁寧に積み重ねていけばいい。太宰府には、初詣の時期には雪景色があり、続いて飛梅をはじめとした梅花の季節、そして春の桜。3月には平安時代の雅を伝える曲水の宴もあります。夏には大楠の緑がことのほか鮮やかですよ。秋には天満宮で一番大切なお祭り、神幸式大祭があります。そんな四季折々の太宰府の魅力を、参道の私たちがしっかり盛り上げていく」。シンプルだが、それだけに難しい。本来の持ち味、太宰府の強みをきちんと磨くことで、自信をもって観光客を迎えることができるのだ。
「それと、旅行の楽しさといえばおいしい食事とお土産でしょう。『太宰府天満宮の参道に行けば、おいしいものが食べられる』といわれるようにしたい。今、当社が運営している『てのごい家』の奥に、新しい店舗を準備しています。ゆっくりとくつろいでいただける茶席を設けますので、楽しみにしてください」。
これまでの太宰府の強みに、ひと手間加えてさらに良いものを。不老社長の目は常に前を見ている。
「太宰府天満宮におまいりに来る方は、日々の感謝の祈りを捧げに来るのです。受験合格祈願をはじめ、毎日努力した結果が実りますようにという祈りでしょう。だから私たちも、日々できることを精一杯にやって、お客さまたちをお迎えしたい」。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:不老 安正
所在地:福岡県太宰府市宰府2-7-24
設 立:2005年3月
資本金:1,000万円
TEL:092-922-1010
URL:http://www.kasanoya.com
<プロフィール>
不老 安正(ふろう やすまさ)
(株)かさの家代表取締役。2005年より現職。(公社)福岡県物産振興会会長、(公社)福岡県観光連盟副会長、太宰府市観光協会会長、日本クレー射撃協会副会長、大日本猟友会副会長、福岡県クレー射撃協会会長、東京オリンピックアスリート委員、日本オリンピック委員会コーチングスタッフなどの要職に就き、多方面で活躍を続けている。クレー射撃ではソウルオリンピック出場、国体には通算20回出場。18年11月に黄綬褒章を受賞。関連キーワード
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