2024年11月22日( 金 )

「社会をつくるのは自分たち」という意識を すべての人がもつ時代がきている

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(株)ボーダレス・ジャパン
代表取締役社長 田口 一成 氏

事業の力で社会的課題を解決するソーシャルビジネス

 ――ボーダレス・ジャパンが取り組んでいるのは、どのような事業でしょうか。

(株)ボーダレス・ジャパン
代表取締役社長 田口 一成 氏

 田口 ソーシャルビジネスです。環境問題、難民の就労問題、途上国の貧困問題、障がい者の就労問題など、社会的課題を解決する事業を行っています。日本だけではなく、バングラデシュやミャンマー、フィリピンなどのアジア諸国、あるいはグアテマラやエクアドルなど中南米、ケニアやアルジェリアなどアフリカでも、その国や地域ごとの社会的な課題を解消するための事業を行っています。

 「恩送りのエコシステム」と呼んでいますが、グループ各社の余剰利益を、新しい事業を立ち上げる起業家のためにプールしています。社会的起業のアイデアをグループ各社の社長たち皆で検討し、持続可能性や将来性があると結論が出たものは、プールした資金を資本金にした独立採算の企業として起業できる仕組みです。

 起業した社長には最大1,500万円の資金が渡され、事業運営から採用・報酬・投資まですべて責任をもって経営にあたります。もしうまくいかずに事業資金が尽きたらそこで事業は終了するキャッシュフロー型経営です。何度でも再チャレンジができます。

 ――「ソーシャルビジネス」という言葉は、最近よく見かけるようになりました。福岡でも取り組む人が増えているのでしょうか。

 田口 まだまだこれから、というところだと思います。当社では、「社会変革の担い手を育てるソーシャルビジネススクール」と銘打って、ボーダレス・アカデミーという社会的起業家を養成する取り組みを行っています。今3期目になりました。定員25名で、東京では毎期定員以上のお申し込みをいただいています。福岡では1期目は25人で満員でしたが、2期目は20人ちょっと、3期目は12、3人です。今現在、福岡でソーシャルビジネスに取り組んでいる人の多くは、ボーダレス・アカデミー出身者という感じではないでしょうか。

 ――まだまだ根づいたとはいえないかもしれませんね。

 田口 土壌としてはあると思います。もともと福岡は、地元に密着した企業が多い。地元に根を張っている企業は、地域社会のために事業をやっていくという発想を初めからもっています。たとえば、発達障がいをもっているお子さんを預ける先が施設しかない状態を変えようと、アフタースクールで情操教育をやったり、アートを学ぶ機会をつくったりする取り組みがあります。これはまさにソーシャルビジネス的な発想ですね。東京と比べると絶対数は少ないですが、マッチする土地柄だと思います。

家庭やオフィスに自然エネルギーを 「ハチドリ電力」

 ――今、田口さんが一番力を入れている事業はなんでしょうか。

 田口 「ハチドリ電力」です。家庭やオフィス・工場などに、自然エネルギーを販売しています。現在、もっとも大きな社会的課題は地球温暖化。そして、その原因となっているのはCO2の排出です。これは後戻りできない、大きな課題です。

 今、日本から排出されているCO2の41%がエネルギー部門、つまり発電です。日本で発電されている電気の約8割が石炭・石油などを燃やして発電する火力発電で賄われていますが、発電で使うエネルギーを再生可能エネルギーに変えることができれば、日本から出るCO2を大きく減らすことができます。そして私たちは、環境活動への選択肢として選んでいただくために、一択しか提示したくない。それが、実質自然エネルギー100%のプランです。経済性を考えると「自然エネルギー100%だと高価なので、70%」という発想もあるのでしょうが、それはやりたくない。

 ――とはいえ、それではコストが高くなるのではありませんか。

 田口 ハチドリ電力では、電気からは利益を取りません。「会費」というかたちで、ひと契約につき500円だけ運営費用をいただきます。

 ハチドリ電力は、利用料の1%を基金として再生エネルギー発電所をつくる仕組みになっています。ハチドリ電力を使うことで、CO2を排出しない電気を遣えるだけではなく、再生可能エネルギーを実際に増やすことに直接寄与できる仕組みになっています。

 ――太陽光発電といえば一時、メガソーラーブームが加熱しました。

 田口 FIT制度(固定価格買取制度)が、投資対象になってしまいました。そのため、無理な開発が行われたことで再エネ批判も起きた。でもこれは、あくまで取り組み方の問題だと考えています。そもそも環境問題への行動としての太陽光発電なので、環境を壊さない設置の方法があります。戸建住宅や集合住宅の屋上に設置する方法はもちろん有効です。新しいものでは、ハチドリ電力が推進しているソーラーシェアリングがあり、これは畑の上にソーラーパネルを置く方法です。畑で栽培される野菜や果物にとって、太陽光は3割ほど過剰なのです。つまり、3割分はソーラーパネルで遮って、発電に使ってもいい。発電と農業で、太陽光をシェアするわけです。これなら、農家さんにとっては副収入にもなります。

 ――今年は、コロナ禍もあって人々の意識が大きく変わった年でした。

 田口 もっと変わってもよかったかもしれません。コロナで時間が止められて、強制的に通勤できなくなり、行動様式がガラッと変わった。自分の生活を振り返る、いい機会になったのではないでしょうか。「お金を稼ぐために働く」という、これまで当たり前だと思っていたことに疑問をもつ良い機会だったと思います。

 ――みんなの意識が変わったとまではいかなかった気がします。

 田口 やはり、「社会は自分たちがつくっているものだ」という認識が少ないのではないでしょうか。「社会参加」という言葉がありますが、選挙にすら行かない人も多い。社会の出来事と、自分の生活を結びつける想像力に乏しい。

 僕たちの仕事は、「社会は自分が関わることで変えられる」というメッセージを届けること。たとえば自宅やオフィスの電気をハチドリ電力に切り替えることで、CO2を減らす当事者になれるという選択肢を届けることです。


<COMPANY INFORMATION>
代 表:田口 一成
所在地:福岡市東区多の津4-14-1(福岡オフィス)
設 立:2007年3月 資本金:1,000万円
TEL:092-292-5791
URL:https://www.borderless-japan.com


<プロフィール>
田口 一成 
たぐち・かずなり
 1980年12月生まれ。3人兄弟の長男。西南学院高校・早稲田大学卒。大学2年のときに発展途上国で栄養失調に苦しむ子どもの映像を見て、ソーシャルビジネスに取り組むことを決意。現在、自らも「ハチドリ電力」など新しい取り組みを続けながら、年間100社のソーシャルベンチャーを立ち上げる仕組みづくりに奔走している。

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