2024年11月20日( 水 )

ストラテジーブレティン(267 号)2021 年コロナ制圧、世界同時好況が視野に、怒濤の日本株高も(3)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2020年12月3日付の記事を紹介。

(3)ポストコロナ、米金融政策転換、ドル高がいつ起きるか

 米実質金利低下はインフレ期待が低下しないため、潜在的ドル高要因のある現在、国際金融市場ではドル安がコンセンサスとなっている。米国が、世界でもっとも積極的な金融財政緩和を打ち出しており、ドル供給が潤沢になったことが要因である。

 加えて、ゼロ金利政策の下で米国の実質金利が-1.2%と世界最低となったことが、ドル安論を大きく後押ししている。実質金利差は為替市場においてもっとも重要なトレンド決定要因とされており、この米国実質金利低下が、ドル安観測が広く共有される大きな要因になった。

 しかし、この積極的財政金融緩和は2021年~22年にかけて、米国経済が先進国なかでもっとも力強く回復することを予見させる。その状況で金融政策転換が見えてくれば、ドルは大きく強まるだろう。

 米国実質金利の大幅な低下の主因は、ゼロ金利にあるのではない。短期政策金利では、米国のみならず、日欧も共通してゼロ近辺である。米国の実質金利が著しく低いのは、コロナ感染下にあっても、米国のインフレ期待がまったく低下しなかったことにある。

 TIPS(米国物価連動債)から逆算した米国の長期期待インフレ率(10年債利回り-TIPS)は1.6~7%とほとんど低下していなかったことは、米国経済のインフレ基礎体力が相当強いことを示唆している。米国は先進国のなかで、もっとも経済成長に対する自信が強く、ゆえにインフレ期待が高いのであり、そのことが米国の実質金利をことさらに押し下げているといえる。

 この経済に対する自信、インフレ期待の相対的な高さは、金融政策の転換をいち早く必要とし、長期的にはドル高を招く要因である。すでに米国長期金利は8月の0.5%で底入れしており、実質金利も上昇に転じている。FRBは、対コロナ戦のためにさらなる金融緩和の体制を整えているが、他方で5~6月以降QE(量的緩和策)を抑制し、マネタリーベースの増加を止めている。過剰な流動性供給が、投機過熱を招くリスクを警戒している表れともみられる。

 米国の超金融緩和の継続とドル安という議論は、Withコロナが続く期間限定のストーリーと割り切るべきであろう。スティーブン・ローチ氏は米国の双子の赤字がドルの急落をもたらすと主張しているが、それは米国の産業競争力が瓦解し、貿易赤字が急増した1980~90年においてのみ通用する議論である。

 米国経常赤字は85年に対GDP比3.4%、2006年5.7%と悪化していたが、20年第2四半期には2.6%と大きく抑制されている。また、経常収支のうち米国が圧倒的競争力を誇る、サービス輸出と1次所得収支(米企業・個人の対外投資から生まれる果実)は20年前の900億ドルから19年には5,068億ドルへと拡大しており、大きな外貨の稼ぎ手になっている。

円高回避の手段、財政出動が金融政策の自由度を高める

 他方、日本側にも円安を期待させる要因がある。スガノミクスである。菅氏は、株式と為替に強い関心をもった指導者である。また、積極財政論者の高橋洋一氏を内閣参与に指名したことから、経済回復とデフレ脱却のためには財政出動が必要なことを理解しているとみられる。

 アベノミクスのスタート前の12年、日本の財政赤字(対GDP比)は8.2%であった。それが消費税増税を経て18年には2.3%へと急縮小した。アベノミクスの最初の6年間、財政緊縮は毎年1%の成長の下押し圧力になり続けたのである。

 10年代の主要国と比べての日本の低成長は、この財政緊縮路線によるものであった。しかし、コロナを奇貨として、日本は長期財政緊縮路線から拡大路線に舵を切った。財政赤字(対GDP比)はIMF見通しによると20年は14.8%と米国の18.0%にはおよばないものの、ユーロ圏の10.0%を大きく上回っている。加えて、真水でも15兆円を超えるとみられる第3次補正が計画されている。

 菅氏は官房長官時代、財務省(財務官)、金融庁、日銀の3者会合を主催し、財政金融の連携体制を強化してきた。日銀はイールドカーブ・コントロールにより、長期金利の上昇を容認する一方、地銀の当座預金に付利を与えるなどの事実上の補助金を導入し、マイナス金利の深堀という円高回避の奥の手を準備している。1ドル100円以上の円高の壁が固いことがわかれば、投機筋はいずれ大幅な円安にチャレンジするかもしれない。

 このように、21年は(タイミングはわからないが)世界同時好況と日本株高を惹き起こすという基本的趨勢のもとにある、と考えられる。世界景気と市場は、Beforeコロナ⇒コロナ・ショック⇒Withコロナ⇒Afterコロナと推移する過程で、ローラーコースター的な展開を見せるだろう。

 コロナパンデミック当初の緩慢な景気回復、超金融緩和下の低金利・ドル安/金高・グロース株選好の株高は、いずれAfterコロナを展望する移行期に入る。金融政策転換・金利上昇・ドル高/金下落・バリュー株/新興国株/日本株選好の株高というかたちになるだろう。

(つづく)

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