2024年12月21日( 土 )

ストラテジーブレティン(267 号)2021 年コロナ制圧、世界同時好況が視野に、怒濤の日本株高も(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2020年12月3日付の記事を紹介。

(4)コロナが加速する歴史の歯車

 コロナ以前から2つの歴史的趨勢が起きていた。(1)ビジネス、生活、金融、政治のすべてを覆いつくすIT・ネット・デジタル化、(2)財政と金融の肥大化による大きな政府の時代である。しかしこうした歴史的趨勢は、牢固な障害物により展開を阻まれ、それがここ10年近く世界経済の桎梏(しっこく)となっていた。障害物とは、ネット化に対しては、既存の慣習や制度、変わりたくない抵抗勢力、大きな政府に対しては、健全財政信仰、緊縮金融信仰である。

 これらの阻害要因が歴史の流れを押しとどめ、澱みができ、政治・制度・経済・社会・生活などで大きなひずみが起こっていた。コロナパンデミックはこれらの阻害要因をことごとく壊し、歴史的趨勢を加速させると考えられる。

 コロナ感染が沈静化したとき、世界経済はより活力を高めているはずである。本来なら何年もかかり多くの失敗の後にようやくたどり着いたであろうこれらの結論に、コロナパンデミックにより瞬時に到達できたことの意義は大きい。

コロナで思い知った技術の大進歩

 コロナ発生後の世界で人々がもっとも驚いたことは、いかに技術が進化していたか、ということであろう。在宅勤務、在宅授業、在宅診察などにより、ほとんどのビジネスと生活は、直接の人的接触なしに遂行できている。ネットワークの技術基盤がすでに整っていたのである。しかし古い仕組み、慣習、規則・規制、無知などによって、その実用化が阻まれ、これまでそうした市場・ニーズはまったく生まれていなかった。

 コロナでインターネット活用の障害物、古い制度や習慣、変わりたくない抵抗勢力が吹き飛んだ。人と人との直接接触を避ける切り札としてのネット化が、有無を言わせない至上命令となった。企業の外部閉鎖性の改革、労働時間の短縮・フレックス化、兼業・副業の常態化、テレワークの障害物であったハンコ文化の一掃、ドキュメントの紙からデータへの転換も一気に進んでいる。多様な方向で労働編成改革が断行される。

財政金融の全面緩和で世界経済加速局面へ

 コロナが押し流したあと1つの障害は、財政・金融の健全性神話である。従来、各国政府は財政の健全化を“錦の御旗”とし、財政赤字の抑制を最重点の政策課題としてきた。たとえばユーロ圏の参加国は財政赤字対GDP比3%以下、政府債務対GDP比60%以下という厳しい財政規律が求められてきた。

 しかし、今回のショックでできることは何でもすべきとの緊急性の認識が共有され、各国の政策当局が足並みをそろえて財政政策の禁じ手が解禁された。米国の2020会計年度(19年10月~20年9月)の財政赤字が前年度比3倍の3.1兆ドル、対GDP比では戦後最大の16%に膨らんだ。

 連邦政府債務も27兆ドル弱と国内総生産(GDP)比で126%まで膨張し、第2次世界大戦直後を超えて過去最大になった模様である。国際通貨基金(IMF)は先進国の政府債務対GDP比は126%と第2次大戦時の120%に匹敵すると予想している。またEUは初めて、7,500億ユーロの財政資金を復興支援に投入することを決定した。

財政緊縮の経済思潮の後退

 MMT、シムズ理論(FTPL)など、財政を有効活用する経済理論と政策は、大多数のエコノミストの反対にあい、実現は困難であった。しかし、奇しくもコロナパンデミックにより、財政のけた外れの拡大は不可避となった。

 これまでこの超積極的・拡張的財政は禁じ手であるという考え方が、学者、エコノミスト、メディアを支配してきたが、その根拠は乏しい。それどころかケインズ以来の有効需要理論が一段と求められる時代である。金融システムの守護神であるIMFチーフエコノミストのギタ・ゴピナス氏が、“Global liquidity trap requires a big fiscal response”「世界的流動性の罠が大きな財政出動を求めている」とフィナンシャルタイムズ紙(11月2日付)で訴えたことが、世界の経済思潮の大変化を示している。

 コロナ感染が発生する前の世界経済は、物価低下圧力=需要不足、金利低下圧力=金余りという2つの根本的困難を抱えていた。需要不足は、インターネット・AI・ロボットによる技術革命が生産性を押上げ、供給力が高まっていたために引き起こされた。金利低下は、企業の高利潤(生産性上昇によって企業が獲得した付加価値)と家計の過剰貯蓄が購買力を先送りしているために引き起こされた。

 よって、財政と金融双方の拡張政策で余っている資金を活用し、需要を喚起することが必要であった。コロナパンデミックを契機に、遊んでいた資本と供給力が活用されれば、景気はコロナ感染前より良くなるはずである。

(了)

(3)

関連キーワード

関連記事