2024年12月04日( 水 )

病床回転率を重視した経営改革に成功 地域に根差した「スーパー救急病棟」へ

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(医)勢成会 井口野間病院

「治す」医療への転換で病棟稼動率が大幅アップ

 井口野間病院は1956年に開設された精神科・心療内科医院だ。96年には(医)の認可を受け、地域に根を下ろした良質な医療を提供することで、順調に規模を拡大。現在は療養病棟46床を含む精神科216床を有している。

 2016年にこの歴史ある病院の理事長に就任した高山成吉氏はそもそも、がんを専門とする外科医だが、その手腕は経営にもおよび、山口県周南市の徳山病院を理事長として見事に再生させた実績は高い評価を受けている。ここ井口野間病院でも、改革を成功に導き、なお成長を続けている。

 その方法は、まさに正攻法だ。「(前略)患者さん1人ひとりの自主・自立を促し、教え育む心を持ち社会復帰に努めます」という創業期の理念に改めて立ち返ることで、精神科本来の存在理由と機能を十分に発揮できるように促したのだ。

 具体的には慢性期医療から急性期医療への転換、つまり「治す」治療に大きく舵を切った。医療への依存度が低く、症状が比較的安定した「社会的入院」と考えられる患者の在院日数を短縮化。13年度は外来患者数294、病棟稼働率87・5%だったが、19年度には外来患者数482、病棟稼働率94・1%にまで改善。これによって、業績も上向き、売上高約11億円、経常利益約800万円(13年度)から、同14億円、同約6,700万円(19年度)にまで伸長した。

井口野間病院/売上高と利益(年度別)

企業と連携した就労支援に着手 実績が評判を呼び患者数の増加に

 早期の退院を促すには、患者とその家族に、「その後の安心」を提供する必要がある。そのための方策の1つが「B型」と呼ばれる就労支援への着手だ。

 これは単に「病院の次の送り先」をつくるということではない。退院後、発症の心配がある場合は自宅療養が基本となるが、家から出られない場合はデイケアを含めた訪問看護や定期的な経過観察を継続する。次の段階として、「公共交通機関を利用して病院まで来られるかどうか」や、「簡単な作業を通して1日を過ごせるか」などを丁寧に見極める。これらのステップがクリアできて初めて、就労支援へと進むのだ。

徳山病院新病棟
徳山病院新病棟

 さらに、手厚い就労支援で患者の生活にまで目配りする。実は、企業への就労におけるネックは企業側にあることが多い。雇用したくても「患者はいったいどれくらいの作業ができるのか」「トラブルが生じたときに対応できるのか」といった不安が先に立つのだ。そこで企業の担当者との連携を密にした。懸案事項に関して細かな対処法を伝えるとともに患者の就労後も企業を訪問するなど、手厚いサポートを実施したのだ。

 この事業の運営方針もまた、まさに正攻法なのだが、2年前から本格的にスタートした本事業は今年に入って黒字に転換。患者にも企業にも徹底的に寄り添うという一連の動きが評判を呼び、引いては患者数の増加にもつながっている。

経営・治す治療・働きがい 三位一体で改革を推進

 病院経営で直面する課題の1つに、長期入院者の問題がある。井口野間病院では「治す」治療に専念することで病床回転率を上げ、患者の社会復帰と経営改善の双方を実現してきた。その根底には、「自ら生活の糧を得られるよう、患者の社会復帰を応援するのが、精神科に携わる医療人のもっとも大切な使命」という高山理事長の考えがある。

 この信念は患者や家族だけではなくスタッフにも深く影響する。「医療人ならば誰もが、目の前の人の苦しみを和らげてあげたい、治してあげたいという思いがある。経営側が本気でそこにコミットすれば、スタッフは必ず力を発揮してくれる」(高山理事長)。

 なぜ医療に携わるのか。自分は何がしたいのか。高山理事長はスタッフ1人ひとりと面談を重ね、医療人としての志を丁寧にヒアリングした。そのうえで理念研修を充実させ、個人のビジョンと病院の理念・方針のベクトルを合わせて質の高い医療を実現したのだ。

 企業の成長につれて変化する目標を、全員で共有して進んでいく。「革新的なことは何もない。この極めてスタンダードな道を繰り返し、地道に歩んできただけ」と、高山理事長は控えめに自身の方針を振り返る。

新病院開院に大規模改修 在宅医療や福祉事業にも注力

 井口野間病院は今年10月から改修工事に入る。病院機能を少しずつ移転しながら総工費約20億円、3年以上をかけて新病棟を開設。重症かつ緊急に治療が必要な患者を受け入れる「スーパー救急病棟」(精神科救急入院料病棟)を設立し、雁ノ巣病院(福岡市東区)、油山病院(同市南区)につぐ都市圏の中核病棟を目指す。

 今回の改修を機に、以前から相談の多かった認知症の専門病棟も設立する。また、在宅医療や福祉事業の強化も欠かせない。訪問診療や居宅介護支援事業所、就労支援事務所などグループ内での連携を図り、地域密着型の病院としての役割をさらに高めていく方針だ。

 20年10月には徳山病院の新病棟が開院した。診療科目は違えど、高度な機能が求められる急性期医療への転換や、地域との連携、人材育成の強化など多岐にわたる改革を継続することで経営を改善する手法と道のりは同じだ。高山理事長のいう「特別でもなんでもない、ごく当たり前の日々の営み」による病院の再生事業は、これからの医療経営の1つのモデルケースとして、注目度を高めることは間違いない。


<COMPANY INFORMATION>
理事長:高山 成吉
所在地:福岡市南区寺塚1-3-47
設 立:1995年11月
TEL:092-551-5301
URL:https://inokuchinoma.com


高山 成吉 氏<プロフィール>
高山 成吉
(たかやま なりよし)
北九州出身。外科専門医、がん治療認定医、乳腺外科専門医、医学博士。緩和ケアや老人医療も専門として地域密着型医療を提供。(医)周友会徳山病院理事長など。
 

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