“未来の大国”ベトナム:コロナ禍を逆手に取り、ワクチン開発や通商政策で新機軸を展開中!(中)
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2020年12月18日付の記事を紹介する。
もちろん、コロナ禍の影響でベトナムも厳しい状況に追い込まれたことは間違いない。中小企業を中心に15万社を対象にした調査でも「84%がコロナで業績が悪化した」と答えている。とはいえ、ベトナム政府は発生源と目される中国と陸続きのため、20年1月末という早い段階で国境封鎖を実行。海外からの観光客の激減を想定し、国内観光の促進に軸足を移した。ベトナム政府は国内での観光客の往来を活発化させようと旅費の補助をはじめとする支援策を打ち出すことになった。
その流れに乗るように、20年6月、世界を驚かす新観光名所がハノイにお目見えした。何かといえば、世界初となる「金製ホテル」に他ならない。5つ星の「ドルチェ・バイ・ウィンダム・ハノイ・ゴールデン・レイク・ホテル」である。外壁から内装、そして室内のバス、トイレ、洗面道具から食器に至るまですべてに純金が使われている。
まさに「黄金の輝くホテル」というわけだ。しかも、ベトナム人の懐具合に鑑み、200以上ある客室の料金は一泊250ドル。ちょっと奮発すれば「豪華なファラオ気分が味わえる」ということで、人気は上々。
実は、ベトナムは金の産出量が世界でも有数の国であり、外国と比べても安い値段で金製のホテルが建設できたという。ホテル内での食事には金製の食器に加え、料理にも金粉が欠かせない。予約が殺到しているようで、現在、南部と中部にも新たな金製ホテルの建設計画が進んでいる。
日本はかつて金閣寺や秀吉の黄金の茶室で「輝くジパング王国」とも呼ばれたが、一般に開放されたベトナムの金製のホテルやプールには負けるだろう。なぜなら、オーナーであるホア・ビン・グループの会長曰く「普通の人々にスーパーリッチな生活を味わってもらいたい」ということで、「手軽な値段で誰でも利用できるようにしている」からだ。やたらと値段の高いアメリカのトランプ・ファミリーが経営するホテルやリゾートとは大違いである。
ちなみに、同じ6月末、ハノイでは「ホテル日航」がリニューアルオープンしたばかり。こちらは日本からの観光客を想定していたため、現状は厳しい状況が続いているようだ。とはいえ、菅総理も就任後初の海外訪問先にASEANの議長国であるベトナムを選び、日本のASEAN重視をアピールしたのは理にかなったことである。両国間では、ビジネス往来に関しては2週間の隔離を免除するなど、人的交流への緩和策で合意しており、21年以降には日本からのビジネスマンや観光客が再び多数ベトナムを訪問するに違いない。
ちなみに、菅総理はフック首相らベトナム政府の要人との面談で行政サービスのデジタル化や農林水産業の分野でのグリーン化について協力して取り組むことで意見の一致をみたという。フック首相からは「2025年までにGDPの20%をデジタル経済分野で生み出す。そのためには労働生産性を7%向上させる。結果として、イノベーションの分野で世界のトップ35の仲間入りをはたす」との説明があった。実際、11月11日には「デジタルASEANサミット」がハノイで開催された。
ベトナムの工業生産も着実に伸びている。本年11月の最新データを見れば、昨年同月と比べ、実に9.2%の増加を記録していることがわかる。なかでも注目すべきは製造業で11.9%もの増加を達成。次に増加率が顕著なのは水関連と廃棄物処理で5.3%である。その後には4%増の電力事業が続く。他方、鉱山や採石事業は6.2%の減少となっている。
新たなワクチン開発への期待が高まる製薬業界や電子、コンピューター、光学関連業界、そして製紙業界もプラス成長を遂げており、経済全体の底堅さを示している。そうした基盤産業の堅調さもあって、ベトナム経済は全体として極めて順調に発展しているといえるだろう。
その結果、富裕層の存在も注目を集めるようになってきた。投資可能な資産を3,000万ドル(約33億円)以上保有するベトナムの富裕層は1万人を超える。このままで行けば、26年には富裕層の増加率で中国やインドを抜き、世界最高を達成するとも言われている。
たとえば、ベトナム最大のコングロマリットである「ビングループ」。同グループの傘下にはスーパーマーケット、ショッピングモール、リゾート・不動産開発、病院・学校経営、スマホの製造販売と多様な企業が軒を連ねている。19年からはベトナム初の国産自動車の製造販売も開始した。
会長のファム・ニャット・ブオン氏はベトナム最大の資産家である。そんなブオン会長の経営手腕は折り紙つきで、人口が増え続け、間もなく1億人になる国内市場の先行きを視野に、昨年末には別のスーパーマーケットチェーン大手と合併。その狙いはビジネスを自動車とスマホの製造販売に集中するためと思われる。
実際、昨年6月から販売の始まった国産車「ビン・ファスト」の売上は年末までに6万7,000台と好調であった。また、次世代通信システム5G対応のスマホの売上も順調に伸びていた。そこに降って沸いたのがCOVID-19である。
すでに述べたように、ベトナム政府は1月末にはそうそうと中国との国境を封鎖し、外国との往来をストップすることで国内感染を食い止めようと先手を打った。しかし、日本をはじめ海外との物流や投資もほぼ中断してしまい、その経済的影響は無視できない。そのため、新たな活路を見出すべく、国内の富裕層を牽引車に仕立て、需要を掘り起こす作戦に打って出た。その先頭に立ったのがビングループである。
外国製の自動車と比べれば、国産の「ビン・ファスト」は売れているのだが、当初の予想通りには行かず、今年前半の収益は対前年比で6割減となってしまった。とはいえ、強気のブオン会長は高級車「ビン・ファスト・プレジデント」の導入を発表し、巻き返しを図っている。富裕層の増加率では世界最高のスピードを誇っているベトナムである。
著者:浜田和幸
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