2024年11月20日( 水 )

Z世代を意識しながらコロナ禍での変化に対応を図る(中)

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現在の新型コロナウイルス感染拡大によりもっとも過酷な状況に置かれているといっても過言ではないのは「飲食店」「ホテル・旅館」業界。これらに属する会社がどのような時代認識をもち、経営努力をしているのか、原鶴温泉に位置する(株)泰泉閣の代表取締役・林恭一郎氏と海外含め飲食店を多店舗展開するアトモスダイニング(株)の代表取締役社長・山口洋氏に話をうかがった。2社の戦う姿は同じ時代を生きる私たちを鼓舞してくれるのではないだろうか。

アトモスダイニング(株) 代表取締役社長 山口 洋 氏

 周知の通り、飲食業界も深刻な影響を受けた。人々が深夜まで飲み歩くことはなくなり、収益はガタ落ち。閉業を視野に入れる店舗が続出している。
 アトモスダイニング(以下、アトモス)は福岡市内を中心に海外も含め、32店舗を展開する飲食チェーン。料理のジャンルは焼き鳥、イタリアン、焼肉、和食など、1つのチェーンのなかでのバリエーションの豊富さは有数のものだ。最近ではインスタ映えを狙った商品を提供している「食堂うめぼし」が若い女性を中心に話題になっている。

コロナ禍でも止まってはいられない

 アトモスは緊急事態宣言が出て3日間は全店休業したが、その時間を無駄にせず、テイクアウト事業の準備を始めた。またデリバリー需要に対応すべく、Uber Eatsへの登録もこのときに行った。しばらくは通常営業に戻れずにいたが、そのなかで参加した『ドライブスルーふくおか』で弁当の販売を行い、2,000食を売り上げ、客との間のつながりを感じることができた。その後、新しい生活様式が世に少しずつ広まっていくにつれて、通常営業の体制も取れるようになり、落ち込んでいた売上も回復していった。

 アトモスの凄さは店の営業のみならず、業界の様子にも目を向けたことだ。飲食店の営業自粛によって行き先を失った野菜を抱える農家を支援すべく、野菜を買い取り、来店した顧客に格安で売るなど、それはまさに手に手を取り合うものだった。

 「大根農家さんが出荷できない状況になっていました。このまま捨てるのももったいないから僕たちがもって帰って、お弁当とかお惣菜にして活用したり、そのものを直接販売してその一部を農家さんにお渡ししたりしました」。

 自らの経営も考えなければならない状況でも、困っている農家の様子を聞きつけるとすぐに行動を起こす。その姿勢は私たちにも何かできることがあるのではないかと考えさせられるものだろう。

海外店舗の現状

 アトモスはウラジオストク(ロシア)、エストニア、ハワイにも店舗をもつ。感染状況がはるかに悪化している海外での事情についても話を聞いてみた。

 「これから軌道に乗れるのではないかというところでのコロナ禍であり、このタイミングかと悔しく思いました。対応に追われましたが、アメリカの場合はロックダウンが2回あったのですぐに給付金を出してくれました。金利は3.75%、1年据え置きの30年返済と聞き、すぐに利用しました」。

 加えて、ハワイ州では失業者に対して約5万円の「ハワイレストランカード」と呼ばれるクーポン券を配布されたことで、多くの人がそれを使って外食するようになり、現在では売上が回復してきた。

 「出店から今年で11年目ですが、極東のウラジオストクには日本食を提供する店がまだほとんどないので、その人気は今でも続いています。苦労したことといえば、ロシアでは出店の際の保健所の許可がそれぞれ複雑に絡み合っていて、『1つ取ったら次はこれ』という風にとても厳しかったことです。たとえば近くに学校があるからアルコールは出せないなど、独特の基準があります。当地では新参者だったこともあり、煩雑で難解だと感じました。幸いなことに、いろいろな人の力を借りて開店に至ることができました」。

 海外進出という高いハードルを越えた矢先の事態。試行錯誤を繰り返す地道な毎日は続いた。

日本の対応をどう思うか

 海外の行政の動きを知っている山口氏に日本政府や福岡市の対応について海外と比べてどのように感じられたか聞いてみた。

 「11月に2回目の時間短縮要請が出て、場所によって対応の内容がまったく違うなと感じました。要請に協力すれば東京は1事業主あたりに給付ですが、大阪は1施設(事業所)あたりに給付。都道府県ごとに差が出てしまっています。その点福岡市は動きがスムーズで補償の中身もよかったと思います」。

 福岡市は独自の支援策を用意したり、ホームページなどでその内容や新型コロナウイルス感染症関連の各種相談や支援窓口の一覧をわかりやすくまとめたりするなど迅速で手厚いサポートを行っている。業界の第一線で働く事業主にもその点は好評のようだ。

変化の時代でも大事なのは「人」

先日オープンしたばかりの「炭 かこヰ」
先日オープンしたばかりの「炭 かこヰ」

 コロナ禍により博多のオフィス街からサラリーマンたちの姿が消えた。それにより、売上も低下。郊外店舗は営業継続できるだけの来客はあったものの、博多エリアの店舗は休業せざるを得なかった。その間は休業店舗の従業員を営業中の店舗にシフトさせたが、一部アルバイトのみならず社員には自宅休業してもらうことになってしまった。休業を余儀なくされた従業員を守るため、雇用調整助成金を活用し、給料の支払いを行った。

社内バーベキューの様子
社内バーベキューの様子

 営業再開後には、全社社員による「新業態プレゼン」を開催し、予選を突破した11アイデアが審査員の前で発表された。新進気鋭の社員だからこそ出せる発想を取り入れようとする山口氏の姿勢はまさに勉強家そのものである。

 コロナ前から山口氏は人材を一番に考えており、従業員教育の充実に重きを置いている。これは従業員が一人前になるためだけではなく、来店する客のためにもなると山口氏は語る。

 「私たち(店舗以外の人間)がいくら頑張っても、現場の皆さんが何も考えていなかったらお客さまの満足はありません。現場の皆さんが高いパフォーマンスを出してくれることが店の評判に直接つながるため、私はその支援をしなければならないと思っています」。

 そこで働く従業員が満足して働ける環境をつくることが発展へとつながる。実際に、アルバイトの大学生が友人を新たなアルバイトとして紹介することが多いとのことだ。大学生生活を送るうえで必要不可欠なアルバイト選びでその店舗の内部の評判の良さは捨ててはおけないポイントとなる。このような行動が生まれているのは山口氏の従業員を大事にする思いが社内に浸透している証拠であり、会社の雰囲気の良さに魅力を感じるZ世代の需要ともマッチする。

(つづく)

【S】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:山口 洋
所在地:福岡市中央区六本松2-6-6
設 立:2002年12月
資本金:1,000万円
売上高:(19/8)10億2,200万円



<プロフィール>
山口 洋
(やまぐち・ひろし)
1968年北九州市八幡東区生まれ。福岡大学卒後、大手外食企業に入社。経営の勉強を行い、2000年に独立し、友人との共同出資で「新陳代謝促進食堂 辛辛」をオープン。02年にアトモスダイニング(株)を設立し、代表取締役社長に就任。趣味は外食、旅行、映画鑑賞、野球。

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