2024年12月23日( 月 )

国民の命と暮らし守る意思欠落

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 NetIB-Newsでは、政治経済学者の植草一秀氏のブログ記事を紹介する。今回は「政府がやるべきことはすべての国民の命と暮らしを守ることという根本が忘れ去られている。命を守るには、Go To トラベルではなく、感染抑止を選ばねばならない」と訴えた1月5日付の記事を紹介する。


菅内閣の能力不足が日本の市民を不幸に陥れている。

東アジアのコロナ被害は相対的に軽微だ。
中国、台湾、韓国、日本を比較してみる。

人口100万人当たりコロナ死者数は
台湾  0.3人
中国   3人
韓国   19人
日本   29人

欧米では
ベルギー 1,700人
イタリア 1,253人
英国   1,108人
米国   1,091人
だ。

日本の人口当たりコロナ死者数は欧米比では30分の1から50分の1だが、中国の10倍、台湾の100倍だ。

コロナ感染抑止のための菅内閣政策対応が後手後手だ。
国内の新規陽性者数が1,660人になり、3ヵ月ぶりに過去最高を更新したのが11月12日。
11月18日には新規陽性者数が初めて2,000人を超えた。

東京がGo Toに組み込まれたのが10月1日。
人の移動拡大が3週間後の新規陽性者数拡大につながる。
この関係を順当に反映して新規陽性者数が急増した。

11月20日にコロナ対策分科会が感染拡大地域のGo To見直しを提言。
「英断を心からお願いする」と述べた。
しかし、菅内閣は11月21日からの3連休の人出拡大を意図的に放置した。
感染抑止よりも旅行業界への利益供与を優先したのだ。

札幌、大阪、遅れて東京でGo To見直しが行われたが、すべて、それら地域を目的地とする旅行だけの停止で、これら地域を出発地とする旅行は停止されなかった。

11月21日からの3連休の人出拡大を背景に12月中旬から新規陽性者数が急増した。
12月12日には全国の新規陽性者数が初めて3,000人を突破した。

このなかで菅義偉首相は12月11日にニコ動に出演。
「ガースーです」と自己紹介し、Go To一時停止について問われると、「そこはまだ考えていません」と答えた。

12月12日に新規陽性者数が3,000人を超え、12月13日発表の毎日新聞世論調査で内閣支持率が40%に急落する一方、不支持率が49%になって支持、不支持が逆転した。

世論調査結果を受けて菅首相の態度が急変。
12月14日にGo Toトラベルの全国一時停止が表明された。
しかし、菅首相はその発表後に銀座で開かれた8人でのステーキ忘年会に参加。
Go Toの一時停止も12月28日からの実施とされた。

感染拡大を放置すれば影響は幾何級数的に拡大する。
2週間後の実施という判断に菅内閣の驚愕の「のろさ」が表れている。
12月31日、東京都の新規陽性者数が1,300人を超えた。

これを受けて1月2日に首都圏1都3県知事が緊急事態宣言発出を要請した。
菅首相が対応することは可能だったが、表に立たなかった。

しかし、内閣支持率がさらに急落することは必至で、この点に思いを致したのか、1月4日になって緊急事態宣言の検討に入ることを表明した。

12月28日から実施した外国人の入国制限も、もっとも数が多い、感染状況が落ち着いている国・地域を対象にした、
1.出張などの短期滞在者を2週間待機免除で受け入れること
2.駐在員や技能実習生などの中長期滞在者を2週間待機付きで受け入れること
を除外したものだった。

菅首相は「先手先手」と自画自賛したが、ザルの入国規制だった。
1月7日に発出されると見られる「緊急事態宣言」もザル宣言になる可能性が高い。
単なる「夜8時以降の飲み会禁止」宣言に過ぎないものになる可能性が高い。

相変わらず「戦力の逐次投入」で、「戦略失敗の認定と撤回」が行われない。
菅中将のインパール大作戦は大失敗に終わり、菅中将は責任を明らかにする必要が出てくる。
それでも菅中将は、「作戦は私のせいではなく、部下の無能さのせいで失敗した」と言い張るのだろうか。

失敗の本質は、「Go Toか感染抑止か」の判断において、菅首相と二階幹事長が「Go To」を選択し続けてきたことに尽きる。
トップの重大な判断の誤りが日本全国の市民に被害をもたらしている。

経済活動維持は重要な課題だ。
しかし、経済活動維持がGo Toであるとする判断が誤りだ。

Go Toは極めて筋が悪い。
特定の者にだけ利益供与する施策だ。
その利益供与を受けた者が自公にキックバックを行う。
贈収賄の構造のなかでGo Toが推進されていることが問題なのだ。

政府がやるべきことはすべての国民の命と暮らしを守ること。
この根本が忘れ去られている。

命を守るには、Go Toではなく、感染抑止を選ばねばならない。
感染を収束させれば、経済は自律的に拡大する。
感染を拡大させれば、命を落とさずに済む人の命を奪うことになる。

自公政権は2020年度に73兆円もの補正予算を編成した。
法外な規模だ。

国の社会保障を除く政策支出は一年間で約30兆円だ。
2年半分の政策支出金額が追加された。
この公金をすべての国民の命と暮らしを守るために使う。
これが正しい政府の行動だ。

コロナ対策の基本は「検査と隔離」。
無症状の感染者が感染を拡大させている。
徹底的に検査を行い、感染者を隔離すれば感染拡大を抑止できる。

新宿区で感染拡大が報告されたとき、検査を拡大した結果、感染を抑止できた。
これを実行するのだ。

無症状の感染者を隔離するには宿泊療養施設が必要だ。
大きなキャパシティーの宿泊療養施設を確保する。
そのために補正予算を活用するべきだ。

PCR検査は1回2,000円で実施可能だ。
1億回実施して2,000億円で済む。
10億回分の検査費用を計上しても2兆円だ。
73兆円の補正予算を編成したなら、検査のために予算を使うべきだ。

Go Toをやらないと自殺が増えるとはよく言ったものだ。
自殺が増えるのは生活困窮に対して国が適正に支援の手を差し伸べないからだ。
Go Toに投じるお金があるなら、困窮者の生活を支えるために予算を使うべきだ。

年末年始のGo Toが一時停止になったが、事業者に50%のキャンセル料が支払われる。
50%は旅行の補助と地域振興クーポン券の合計金額と同じだ。
旅行が消えたのに、その分の政府支出も消える。

旅館が費用を発生させずに50%のキャンセル料を受領すれば、全額収益になる。

50%の補償は食材提供者、クリーニング提供者等への補償を含むはずだが、補償金額配分に詳細なルール設定がなければ、公金の取り扱いとして適正でない。

生活保護制度がありながら、制度利用の要件を満たす人で実際に制度を利用している人の比率が2割を下回っている。
制度利用の要件を満たす人が100%制度を利用するための施策を講じるべきだ。

Go Toより、よほど適正な財政資金配分だ。
国民の命と暮らしを守ることを第一にせず、利権支出だけを拡張させようとする利権ファースト菅・二階内閣の退場が求められる。


▼関連リンク
植草一秀の『知られざる真実』

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