2024年11月22日( 金 )

地域経済の緩やかな回復に向けて 商工会議所として地場企業の支援に尽力(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
福岡商工会議所 会頭 藤永 憲一 氏

 新型コロナウイルスの感染拡大が幅広い業界の事業に深刻な影響を与えた2020年。地場企業の経営を支援する福岡商工会議所にとって、刻一刻と変化する状況の把握、苦境に陥る企業からの相談への対応、支援などに奔走した1年であった。20年11月の役員改選において会頭に再任(任期は23年11月まで)された藤永憲一氏に、20年を振り返ってもらうとともに、今後の福岡経済の展望について話を聞いた。             

 (聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

今後最大の懸念は少子化

 ――日本全体で人口が急激に減っており、福岡に出てくる人も減っていくのでしょうか。

 藤永 日本全国で同様に減ります。また、やりがいのある仕事を求めて、あるいは将来のことを考え東京に行く人が多いのが現実であり、統計によると、福岡の労働人口流出は女性が多くを占めます。やりがいのある仕事については、福岡には比較的多くありますが、九州全体として見ると人材の流出を引き留めるのは難しいと思われます。やりがいのある仕事を提供する魅力ある企業を育てることが必要です。ただ「鶏と卵」の議論でありませんが、そのような企業が生まれるには人材が必要であり、なかなかうまくいきません。

 福岡には多くの大学がありますが、大学進学時および就職時に相当多くの人が東京に行ってしまいます。地域の中小企業にもやりがいのある仕事があることがわかればUターン、Jターンが増えるのではという期待もありますが、簡単ではなく、大きな流れにはなっていません。

 ――20年はコロナの影響もあり、妊娠が相当減ったようです。

藤永 憲一 氏
藤永 憲一 氏

 藤永 妊娠の減少という傾向は今年も同様でしょう。このようにコロナで少子化がますます進行しています。高齢化の進行が早すぎる点も懸念されますが、高齢者も消費主体であり、元気な人は働けるという意味では、そこまで深刻な問題ではないのではないかと思います。私は今の子どもたちが十数年後に労働者になることを考えると、より深刻なのは若年層の問題であり少子化の問題こそもっとも深刻だと思います。

 政府は出生率改善のために女性活躍、不妊治療支援、新規保育所設立などを行っていますが、より本腰を入れて進めるべきでしょう。先進国では、フランスは出生率を若干回復させています(19年の合計特殊出生率は1.87)。女性が働きがいを感じていれば出産が増えるという説もありますし、託児所の増設も有効かもしれません。

 また、福岡経済同友会の会員企業間で出会いの場の提供を行っていますし、商工会議所の女性会も所属の会員企業の社員に出会いの場を提供しています。

 ――女性の管理職登用の状況はどうですか。

 藤永 現在、企業の女性役員は少数で、女性の活躍を推進しようと旗振りを行っている段階ですが、課長、部長といったピラミッドの中間層まではかなり増えており、現在はその夜明け前です。ちなみに商工会議所には職員が約80人おり、女性部長が1人います。少しずつ育ってきています。県庁、市役所には女性の副知事、副市長がいますし、部長も多く、企業は少し遅れています。ただ外国と比べるとまだまだといったところです。

 私の母校(高校)では男の活躍の場と言われていた応援団で、女子生徒が男子を圧倒しており、ほかの学校も同様とのことでした。この世代がそのまま成長していくと、社会も変わっていく、変わっていかざるを得ないと確信しています。やはり夜明け前です。

経済の緩やかな回復に向けて

 ――2021年はどのような年になるでしょうか。

 藤永 今年のイベントについては、まず5月に開催予定のどんたくの実施の有無について3月には決めないといけません。オリンピック・パラリンピックについても、バラ色といえるような状況であるか疑問です。まだ、コロナ感染の動向やワクチンや治療法の確立も不透明であり、先行き予断を許さない状況が続いています。

 ――コロナ収束に関して、ワクチン開発についてはどう見込んでいますか。

 藤永 資料によると、場面や状況に応じて悲観的であったり、楽観的であったりします。ワクチンが開発され、管理できるようになっても国民に行き渡るようになるまでには時間がかかるでしょう。実際の効果が不明で、開発できない可能性もあります。

 欧米、インド、ブラジルなどの感染状況を見ると、日本だけ現在の程度で済むのかと悲観的な見方をしています。昨年春ごろ、志村けんさんなどの著名人が亡くなったころと比べて、私たちはこうした状況に良い意味でも悪い意味でも慣れてきています。ただ、今後やはり、感染者数の動向は不透明であり楽観論や悲観論の交錯状況が続くと思われます。

 しかし、コロナ感染が続くなか、各種の支援の効果もあり経済・社会は小康を保つことができています。それを楽観論的に捉えれば、今年も昨年以来のトレンドと大きく変わることはないと思われます。それは、感染者数がゼロにならないにしても、社会において感染への免疫が精神的な要素も含めて形成されていくということです。経済についていえば、自然に、徐々にですが、元に戻ろうという復元力が働いていくでしょう。V字回復の実現は困難でしょうが、緩やかな回復を実現することを目標に、会員企業への支援を通して地域経済に貢献していきたいと思います。

(了)

【文・構成:茅野 雅弘】


<PROFILE>
藤永 憲一
(ふじなが・けんいち)
1950年福岡県生まれ。73年に京都大学経済学部卒業後、九州電力(株)に入社。経営企画室長、上席執行役員を経て、2009年6月に取締役常務執行役員に就任。12年6月に(株)九電工の取締役専務執行役員に就任し、13年6月代表取締役副社長執行役員、14年6月代表取締役会長、18年6月相談役を経て、20年7月特別顧問。前会頭の辞任にともない、18年6月に福岡商工会議所第30代会頭に就任、20年11月に再任。

(前)

関連記事