「人間の経済」を基軸に、環境問題を考察する!(2)
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京都大学名誉教授 松下 和夫 氏
2020年は、新型コロナ騒動一色に塗りつぶされた1年であったと言っても過言ではない。「地球という有限の閉鎖体系のなかでは、無限の経済成長は不可能である」と経済学者のケネス・E・ボールディング(当時のアメリカ経済学会会長)が警告したが、ほとんどの国の政府や指導者は「経済成長がすべての問題を解決する」との神話を信奉してきた。
コロナ禍が起こった今こそ、人類は考えを改めることができるのだろうか。京都大学名誉教授・(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェローの松下和夫氏に聞いた。共同債を発行し、市場から資金調達が可能に
――「次世代」EU復興基金について、詳しく教えてください。
松下 EUは加盟国が共同でつくった多国籍機関です。各国がGDPその他に応じて、資金を供出して予算を構成しています。ただし、従来はEUにとって独自の財源がないことが1つの弱みでした。共同債を発行して市場から資金を調達できるようになったことは、金融の上でも大きな動きだと感じています。EUの通常の中期予算であるMFF(多年度財政枠組み)とは別枠になります。
EU諸国のコロナ禍による社会や経済の被害が例外的に深刻であることを考慮し、復興のために被害に見合った巨額の公共・民間投資が臨時に必要とされるためです。債券償還の資金としては、1月から導入するプラスチック新税のほか、鋼鉄やセメントなどの輸入品に対して、その生産にともなう二酸化炭素排出量に応じて課税する「炭素国境調整措置」(国境炭素税)、GAFAのような世界的な巨大IT企業を念頭に置いた「デジタル税」、排出量取引制度(ETS)の船舶・航空部門への拡張や、金融取引税などが検討されています。
政策に「戦略性があるか、ないか」の違い
――日本と比べると、欧州ではとても積極的な動きがあると感じます。
松下 政策に「戦略性があるかないか」の違いであると考えています。日本を含めて世界各国は、「2050年までに温室効果ガス実質排出ゼロ」「産業革命前に比べて、世界の平均気温の上昇を1.5度以内に抑える」を目標に動き出しています。目標が決まれば、そこから逆算して、することはおのずと決まってきます。EUはそれを他国に先駆けて行い、世界の先頭に立ってイニシアティブをとり、競争のルールやスタンダードをつくることによって「先行者利益」を得ることを狙っています。
自動車を例に挙げると、これまではガソリン・ディーゼル車が中心となり、次にハイブリッド車が出てきました。しかし、CO2排出量をゼロにするためにはハイブリッド車では不十分なため、世界はすでに電気自動車(あるいは水素自動車など)に向かっています。イギリスは30年まで、ドイツやフランスは40年までにガソリン・ディーゼル車の販売を禁止し、イギリスは35年までにハイブリッド車の新規販売も禁止する計画を立てています。
EUはすでに、19年6月に持続可能な金融(サステナブル・ファイナンス)の基準を示すレポート「Taxonomy Technical Report」を公表しています。地球環境を念頭に置いて、企業活動のうち、「何が環境に良くて、何が環境に悪いのか」を分類しています。
環境対策でEUを追いかける日本をはじめとするアジア諸国はもちろん、アメリカまでもが、個々の技術がどんなに優れていても、EU諸国に取引や投資などをする際は、EUのつくった規則や基準を遵守せざるを得ない状況になり、EUの後塵を拝すことになるのです。
(つづく)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
松下和夫氏(まつした・かずお)
京都大学名誉教授、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェロー、国際アジア共同体学会理事長、日本GNH学会会長。
1948年徳島県生まれ。71年東京大学経済学部卒。76年ジョンズホプキンズ大学大学院政治経済学科修了(修士)。72年環境省(旧・環境庁)入省、以後OECD環境局、国連地球サミット(UNCED)事務局(上級環境計画官)などを歴任。2001年京都大学大学院地球環境学堂教授。持続可能な発展論、環境ガバナンス論、気候変動政策・生物多様性政策・地域環境政策などを研究。
主要著書に、『東アジア連携の道をひらく 脱炭素・エネルギー・食料』(花伝社)、『自分が変わった方がお得という考え方』(共著 中央公論社)、『地球環境学への旅』(文化科学高等研究院出版局)、『環境政策学のすすめ』(丸善)、『環境ガバナンス論』(編著 京都大学学術出版会)、『環境ガバナンス(市民、企業、自治体、政府の役割)』(岩波書店)、『環境政治入門』(平凡社)など多数。監訳にR・E・ソーニア/R・A・メガンク編『グローバル環境ガバナンス事典』(明石書店)、ロバート・ワトソン『環境と開発への提言』(東京大学出版会)、レスター・R・ブラウン『地球白書』(ワールドウォッチジャパン)など多数。関連キーワード
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