2024年12月22日( 日 )

【長期連載】ベスト電器 消滅への道(11)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 かつて家電業界で日本一の売上高を誇ったベスト電器がヤマダ電機に完全に吸収された。なぜ、このように消滅するという事態になったのか!当社は長期にわたってベスト電器に関する記事を連載してきた。まず、ベスト電器がかつてビックカメラと合併しようと画策を講じたが、破談となった当時のことを報告する。

ベスト電器を買収するヤマダ電機の思惑(後)

(2012年7月18日掲載)

家電流通の淘汰を見越し、シェア拡大へ

 ところが、様子が一変するのは今年5月。5位のビックカメラが6位のコジマを買収し、業界2位に躍進した。ビック+コジマ連合の誕生が、山田会長に、再び、同業者の買収に向かわせたといっていい。なぜか?

 東京都内で記者会見したヤマダの山田昇会長は、ベスト買収の狙いについて、「シェアにこだわり、規模の利益を追求するため」と説明した。売上高を増やす以上に、シェア拡大の意味の方が大きいと言明したのである。家電量販市場におけるヤマダのシェアは3割を超えており、ベストの買収により九州では5割近くに達する。

 これまで「売上高3兆円」の目標を掲げていた山田会長が、なぜ、売上高よりもシェアの確保に方針を変更したのか――。答えは、足元の家電市場の落ち込みが激しいからだろう。家電エコポイント制度の終了や地上デジタル放送移行によるテレビの買い替え特需の終息で、市場規模はピークだった2010年の約10兆円から、今後8兆円程度まで縮小すると見られている。

 ヤマダの13年3月期第1四半期(12年4~6月)の既存店の売上は、前年同期比28.1%減少した。今後、売上が増える見込みはない。ヤマダは5月、旗艦店の「LABI 日本総本店池袋」(東京・池袋)を全面改装。目を引いたのは、店舗の顔として1階に置いてきた「テレビ・レコーダー」を2階に移動させたこと。代わりに1階に下ろしたのは、スマートフォンを初めとする携帯電話。創業以来の目玉商品で、ドル箱だったテレビに見切りをつけた。テレビに比べれば、携帯電話の売上ははるかに小さい。家電イメージが強いヤマダで、スマホを買う若者は多くない。売上高は伸びないということだ。

 家電販売市場が縮小期に入り、売上の拡大が難しくなる。その先に来るのは、量販店の淘汰である。淘汰を経て、シェアが高い企業への寡占化が進むのは、あらゆる業種に共通している現象だ。ビックによるコジマの買収を、山田会長は、業界淘汰に向かう折り返し点と判断した。これがシェア拡大を急いだ理由だ。

 山田会長は、家電販売市場の縮小によって、「全国チェーンは3~4社になる」と指摘している。ヤマダが脅威になると見なしているのが、4位のケーズホールディングス(茨城県水戸市)と5位のヨドバシカメラ(東京都新宿区)が手を組むこと。ヤマダ、ケーズ、ヨドバシは「勝ち組」御三家と呼ばれる。"相思相愛"の関係にあるとされる郊外型のケーズと都心型のヨドバシが合併・統合すれば、売上高は単純合計で1兆3,974億円。一気に業界2位に浮上するだけでなく、ヤマダに迫ることになる。

 山田昇会長の目は、明らかに、ライバルのケーズとヨドバシに向いている。ケーズとヨドバシの包囲網をどうやって築くか。ベストを飲み込んだのは、地方で確実にシェアを押さえておきたいという思惑が見えてくる。

(つづく)

(10)
(12)

関連キーワード

関連記事