2024年12月23日( 月 )

政府債務論のコペルニクス旋回、日本は反省せよ~イエレン・パウエル連携は強力な株式支援に(3)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載していく。
 今回は2021年1月25日付の記事を紹介。 

(3)米国政策選択の柔軟性、日本こそ政策転換が必要だ 

実学に徹する米経済学者、政策当局 

 このように米国の経済学者は反省し潔く自説を変える。前説をいとも簡単に修正する専門家たち、さすが米国と思われる。米国では経済学は正しい政策と投資・ビジネス戦略を導き出すための道具、実学なのである。これに対して日本の専門家は全く柔軟性がない。米国と異なり、経済学を虚学とは言わないまでも形而上学(現実社会との関わりなく存在するもの)としてとらえる傾向があるのではないか。 

実態から遊離している日本のオピニオンリーダー、その典型日経社説 

 コロンパンデミックの後も、旧態依然、米国と好対照の議論を展開しているのが日本である。1月23日、日経新聞は「財政悪化の現実を直視できないのか」との社説で赤字削減姿勢が甘い日本政府を叱っている。 

 曰く「政府が中長期の経済財政試算をまとめた。国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)が、早ければ2029年度に黒字に転じるとみている。経済成長率などの前提が総じて甘く、信頼に足る試算とは言い難い。コロナ禍に対応する経済対策などの影響で、PBの赤字は19年度の14.6兆円から、20年度には69.4兆円に膨らむ。その後に年度平均で名目3%超、実質2%超の成長率を維持できれば、29年度に0.3兆円の黒字となる(がこれは信頼できない)。・・・・厳しい現実を直視せず、甘い見通しで覆い隠したと批判されても仕方ない。 

 困窮している個人や企業を、いまはしっかりと支えるべきだ。そのために必要な国・地方の財政出動をためらう時ではない。だが、政府には財政の窮状を正しく伝える責任もある。・・・・国・地方の長期債務残高はいまや1200兆円規模に膨らみ、国内総生産(GDP)のほぼ2倍に相当する。日本の財政悪化は主要国の中でもとりわけ深刻で、とても楽観できる状況ではない。たとえ危機下でも財政に負荷をかけすぎれば、そのツケはいずれ返ってくる。目先の予算措置で規律や節度を守るだけでなく、いずれは本格的な歳入・歳出改革への取り組みも必要になろう。政府が現実から遊離した試算や目標を掲げたままでは、次の一歩も踏み出せまい。」 

 このように日経社説は、イエレン氏が「大きな行動こそが賢明」と主張している時、財政の窮状を伝えよ、と主張する。財政の窮状とは、イエレン氏が注目する利払いコストではなく、イエレン氏が一旦棚上げせよと言っている政府債務のみに着目した議論である。バランスを欠く悪説というほかない。 

先進国中最低の日本の利払いコスト 

 図表3に見る如く、政府総債務の絶対額(対GDP比)は日本は世界最悪である。OECDによる政府総債務比率は、日本225.3%、米国108.4%となっている(2019年)。しかし今イエレン氏がより重きを置く純利払いコスト(対GDP)を見れば、2019年日本は0.08%は先進国中最低、米国の3.16%を大きく下回っている(図表4)。日本はG7中で最も財政支出を拡大する余地が大きい国なのである。日経新聞がこちらの事実に立脚して議論を張るなら、もっと財政出動をせよ、との真逆の結論になったはずである。 

純債務を隠す財務省のプロパガンダ(?) 

 しかしよく見るとさらにいぶかしいのは、日本の総債務残高(対GDP)と純利払い費(対GDP)のギャップである。かつては日本だけがかけ離れて低金利であったので、債務が大きくても利払いが低いということは、さもありなんと思えた。しかし今欧州先進国が日本以上の低金利に陥っており、日本だけが債務からかけ離れた利払いの低さを維持できていることは、変である。この間に何があるのか、実態は債務の過大表示なのではないか。日経社説にある政府の債務1200兆円のうちほぼ半分は、利払いの発生しない(または利息収入によって相殺される)債務であり、純債務は600兆円に過ぎないのである。

 図表5に見る日本政府部門の統合バランスシート(2018年度)を見ると、総債務は1258兆円(対GDP比225%)であるが、資産(その多くは利子を生む)675兆円を差し引くと、純債務は583兆円(対GDP比104%)に低下する。日本の債務の過大評価は、財務省による捏造(!)という評価もあり得るのではないか。この誤った債務評価を前提とした日経新聞の社説は2重の誤りを犯しているといえる。 

(つづく)

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