2024年12月21日( 土 )

セントラル・パークの奇跡(後)

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大嶋 田菜(ニューヨーク在住フリージャーナリスト)

 昨年の春、ロックダウンが少し緩んで散歩ができるようになったころだ。ニューヨーク人は一斉にセントラル・パークで咲き乱れている花々の写真を撮り、インスタグラムやツイッターに載せていた。

 狭いアパートに慣れすぎていた彼らの目にはまぶしいほど生き生きした色のチューリップ、ムラサキハシドイ、水仙、 レンギョウ 、クロッカス 、桜草、 よもぎ 、ヒアシンス、シャクナゲ、オダマキ、モクレン、それに桜の花。それらが公園を覆い尽くし、まるで天才画家が油絵に描いた絵のようだった。

 夏になって花も散り、ロックダウンでほかに何もすることのできないニューヨーク人たちは、新しく生えた青い芝生の上で日光浴をしたり、大きな樫の木の涼しい日陰でピクニックをしたりしていた。誕生会も結婚式もそこで祝った。秋には鮮やかな緑の葉が黄色や真赤に染まり、それを見ながら新鮮な空気や鳥の声を楽しむことができた。

 ところが、年末に雪が降った。ただの雪ではなく、吹雪だった。夜じゅう降り続き、朝起きたら周りはすべて真っ白になっていた。30㎝ぐらいは積もっていただろう。まるで町中がどこかに消えてしまい、代わりに真っ白い畑に囲まれた田舎の村が置かれたような感じがした。

 あの朝は妙に静かだった。あれは雪の静けさだった。いつも混んでいるファースト・アベニューも、その日はほとんど自動車が走っていない。少し坂になっているので、スキーでもできそうだった。

 長靴を履いてセントラル・パークに行ってみると、おとぎ話のようだった。アメリカでよくいう「ウィンター・ワンダーランド」(Winter Wonderland)はまさにこれなのだ。柔らかい雪を踏むと、足が膝まで沈んだ。子どもたちが興奮して騒ぎながらソリに乗って滑ったり、雪だるまをつくったりしている。

 いつもよりかなり混んでいた。感嘆しながら眺め歩いている人も多い。スキーをしている人もところどころ見かけた。みんな雪を見にきたのだ。鳥たちも、リスも、まるで春がきたかのように音を立てて騒いでいる。特別つらかった一年の終わりに、こんな喜びが待っていたなんて、ニューヨーク人は思いもしなかった。これはきっと、自然からの贈り物だったに違いない。

(了)


<プロフィール>
大嶋 田菜
(おおしま・たな)
 神奈川県生まれ。スペイン・コンプレテンセ大学社会学部ジャーナリズム専攻卒業。スペイン・エル・ムンド紙(社内賞2度受賞)、東京・共同通信社記者を経てアメリカに渡り、パーソンズ・スクールオブデザイン・イラスト部門卒業。現在、フリーのジャーナリストおよびイラストレーターとしてニューヨークで活動。

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