2024年11月24日( 日 )

「CO2実質ゼロ」宣言の真意は?~動き出す太陽光、風力の再エネ転換(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
エネルギー戦略研究所(株) 取締役研究所長 山家 公雄 氏

 政府は「2050年CO2実質ゼロ」を宣言し、洋上風力などの再エネ転換にようやく本気で取り組む姿勢を見せたが、その真意は。さらに、太陽光など再エネ発電所の普及に大きな壁となってきた「空き容量ゼロ」(送電線につなげない)問題は、東京電力の調査で99%が空いていると発表されたが、解決に向かうのか。市場の「中立性」には課題が残る。

電力の「地域の壁」も消滅?

 政府は推進する再エネとして洋上風力を挙げ、候補地域とされる北海道、東北地方の日本海側、長崎を主とする九州などで建設計画が進んでいる。これらの地域は電力需要が少なく、洋上風力で発電された電力は大規模需要地である首都圏や関西圏に送られるが、送電会社間をつなぐ連系線容量が不足しており、送電インフラの増強投資が必要だ。

 山家氏は「これまで地域の送電事業者が負担していた送電線建設費用は、その恩恵を受ける全国の送電事業者が広く負担するという送電線増強に投資しやすいルールに変わることになり、これは大きな前進だ。東京電力管内などの地域ごとの壁がなくなる可能性が高い。一方で、前述のような東電PG方式が全国に普及すると、既存送電線を有効活用できることになり混雑時に出力抑制の機会が増えるが、抑制にともなう費用負担が新規投資の負担より大きいと判断される場合は、新規投資に踏み切ることとなる。しかし、どの送電線を増強するかは政府の思惑次第となると中立的でなくなる懸念があるため、その指標が必要だ。EUでは『出力抑制が5%以上の地域で増強を検討』というルールがあるように、国民にはっきりとわかるルールが必要ではないか」と話す。再エネを普及するためには、送電や配電のインフラは中立的にすべきだという。

 一方、再エネ支援策では、導入の進む太陽光発電や規模の大きい風力発電は、FIT(固定価格買取制度)を卒業して市場価格に連動するFIP(※2)に切り替わる予定だが、風力発電の導入量はまだ少ない。太陽光発電は、急激なFIT価格の引き下げにより新規開発が大幅に減少しており、小さい入札募集枠にもかかわらず、応札量は募集枠をかなり下回る。

 また、FITが継続される予定の小規模太陽光発電、中小水力、バイオマス、小規模地熱発電は自家消費や地域消費、災害時利用などの厳しい認定条件がつき、コストが上がる懸念もある。山家氏は「再エネが成人化するまで国が支えなければ、本当の『再エネ推進』政策とならないのではないか」と話す。  容量市場の問題

 「空き容量ゼロ」問題に解決の道筋が見えた今、発電所が発電できる能力(キロワット)を取引する容量市場が再エネ普及に大きな問題となっている。容量市場は、発電所の建設に多くの費用や期間がかかる火力発電などの建設時に、将来の資金回収の見通しを立てられる仕組みとして開始されたもの。日本では、出力抑制ができず系統全体の調整ができない原発やCO2を排出しやすい石炭火力発電の規制がないため、実質は再エネ抑制となっている。

 山家氏は、入札結果から容量市場が創設されたことによる影響をこう語る。「1つは、電力小売業が容量市場で発電所に支払う負担金の問題。自社、グループ内にて小売事業と発電事業を行い、相対契約により調達する大手電力小売会社などには問題にならない。一方、卸取引所からの調達が多い新電力(※3)は、契約交渉を行う相手方がおらず、大きな負担となる。2つ目は、再エネへの影響。再エネ普及には、出力調整が容易な『柔軟性』のある設備に大きな価値を置く必要があるが、kWだけを評価する容量市場は、柔軟性を排除する方向に働く」。

 容量市場の第1回入札では、1万4,137円/kW・年という新設のガス火力発電所の固定費を5割も上回る高い価格がつき、これらの発電事業者は年間1.6兆円もの資金を追加で得ることとなった。山家氏によると、既存の火力・原子力発電に配慮しすぎた結果の可能性もあるという。

 災害などのリスクを過大評価し、原子力や水力、バイオマス混焼を含む火力などはさまざまな理由から応募容量に含めず、全国の発電所の能力が過小評価されている。入札に参加した発電所の約75%が火力発電で、落札価格は平均入札価格の6.5倍と「濡れ手に粟」の結果となっており、再エネ転換へのダメージは大きい。

(了)

【石井 ゆかり】

※2:売電時に市場価格に割増金として補助金を上乗せする方式 ^
※3:既存の大手電力会社以外の小売電力事業者のこと。 ^


<プロフィール>
山家 公雄
(やまか・きみお)
山家 公雄 氏 エネルギー戦略研究所(株)取締役研究所長、京都大学大学院経済学研究科特任教授、豊田合成(株)取締役、山形県総合エネルギーアドバイザ――。1956年山形県生まれ。80年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に入行し、電力、物流、鉄鋼、食品業界などを担当し、環境・エネルギー部次長、調査部審議役などに就任。政策的、国際的およびプロジェクト的な視点から環境・エネルギー政策を注視し続けてきた。主な著書に、『日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する』『日本の電力ネットワーク改革』『テキサスに学ぶ驚異の電力システム』『送電線空容量ゼロ問題』『「第5次エネルギー基本計画」を読み解く』(インプレスR&D)、『アメリカの電力革命』『日本海風力開発構想―風を使い地域を切り拓く』『再生可能エネルギーの真実』『ドイツエネルギー変革の真実』(エネルギーフォーラム)など。

(中)

関連キーワード

関連記事