菅首相の「CO2実質ゼロ」宣言~原発と再エネの綱引きが激化(後)
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認定NPO法人環境エネルギー政策研究所 所長 飯田 哲也 氏
政府が昨年10月に掲げた「2050年CO2実質ゼロ」宣言により、原発の再稼働を求める声が高まっている。一方、再生可能エネルギーの導入拡大の制約となる規制の改革に向けて、河野太郎行政改革担当大臣が主導するタスクフォースも動き出した。再エネ政策の提言を行っている認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長・飯田哲也氏に2021年の再エネの動向と展望を聞いた。
送電線の空き容量問題
電力の再エネ100%の実現に向けては、ビジネスモデルや投資政策を整え、地域を越えて送電線を活用することが欠かせない。原発を速やかに止めると決めれば、実現できる知恵も出てくるはずだ。
原発を再稼働すると、電力会社の石炭などの燃料費のコストが下がるとされるが、目先の小さな話にすぎない。「福島第一原発事故の処理費用は80兆円((公社)日本経済研究センター推定)になる恐れがありますが、国も負担しており、電力会社はすべての責任を取らなくてよい仕組みです。原発事故の費用を保険や積立金などで電力会社がすべて負うことを義務づければ、原発を止めざるを得なくなるでしょう。そもそも対応できる保険会社は見つからないでしょうが」(飯田氏)。
また飯田氏はこう提案する。「電力会社は原発の使用済核燃料を再利用できる燃料として資産計上していますが、そもそも実態として破綻している再処理を政策として取りやめれば、使用済核燃料はその瞬間に負債となり、電力会社は債務超過に陥る可能性があります。これに対して、国が使用済燃料を引き取ると同時に、送電会社も『抱き合わせ』で引き取り国有化することで、日本全体で一体化した発送電分離を実現できるのはないでしょうか」。
また、「再エネの拡大に向けて、送電線運用や電力市場で先進的な北欧やドイツ、米カリフォルニア州の電力取引所から専門家を招いてスペシャルチームをつくり、官民挙げて取り組むべきではないでしょうか。送電線の空き容量がなく、新しい再エネ発電所が系統に接続できない問題は、混雑時の出力制御を条件に新規接続するノンファーム型接続の全国的な実施で前に進んでいるように見えますが、見せかけだけであることが懸念されます。送電線を1つの国有会社が管理して、太陽光、風力発電を再優先して利用できる電力系統の管理ができるようにIoTを活用した『明治維新並み』の大変革が必要です」(飯田氏)。
世界では、需要家側でのVPP(仮想発電所※2)など電力市場の分散化とデジタル化が進んでいるが、日本では経産省や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが実証実験をしている段階であり、世界に大きく後れを取っている。再エネの発電設備なども中国や欧州勢が主導し、ここでも日本企業は大きく後れを取っている。欧米、アジアでは急速に再エネが普及しており、その歩みは日本よりも早い。
「河野行政改革担当大臣は、再エネの普及に向けて課題を解決すべく議論を進めており、期待したい。太陽光や風力発電、蓄電池のコストは急速に低下しており、法規制を丁寧に整えれば、海外と同じようなペースで再エネが普及する可能性はあります」と飯田氏は語った。
(了)
【石井 ゆかり】
※2:小規模な再エネ発電や蓄電池などの設備と電力の需要を管理するネットワークをまとめて制御し、1つの発電所のように機能させる仕組み ^
<プロフィール>
飯田 哲也(いいだ・てつなり)
1959年山口県生まれ。京都大学工学研究科原子核工学専攻修了、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。日本のFITの起草者で、自然エネルギー政策では国内外の第一人者かつ日本を代表する社会イノベータ。国内外に豊富なネットワークをもち、REN21運営委員、自然エネルギー100%プラットフォーム理事などを務め、2016年には世界風力エネルギー名誉賞を受賞。日本でも国・自治体の委員を歴任。著書に『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論社)、『エネルギー進化論』(ちくま新書)、『メガ・リスク時代の日本再生戦略』(共著、筑摩書房)など多数。関連キーワード
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