2024年12月22日( 日 )

【長期連載】ベスト電器消滅への道(17)問われるヤマダ電機の真価(4)

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 かつて家電業界で日本一の売上高を誇ったベスト電器がヤマダ電機に完全に吸収された。なぜ、このように消滅するという事態になったのか!当社は長期にわたってベスト電器に関する記事を掲載してきた。今回の連載では、ますベスト電器によるビックカメラとの合併の試みの破綻、ヤマダ電機による買収の歴史を遡ってみた。つづけて、比較検討対象として、ユニード、寿屋というほかの地場有力企業の挫折について振り返り、没落していく企業には内部の腐敗、戦略の欠如といった問題が散見されることを確認した。最後に、家電業界に君臨するヤマダ電機が行っている組織の再編、戦略をみていく。

   ヤマダHDの山田会長は、「ナンバーワンはいつか追いつかれ、逆転されるものと考えて経営している。家電だけを販売していては将来がないことはわかっていた。どんな業界でも、変革できない企業は必ず追い越されてしまう」と危機感を強く持っている。

 そこで住宅やリフォーム、家具など「住」を扱う“暮らしまるごと”を打ち出し、現在のヤマダは1万3,000m2の大型店を運営できるほどの商品とサービスをそろえた。しかし、前述したようにその取り組みが必ずしも売上に結びついていない。中核事業の家電量販店ビジネスは、アマゾンをはじめとするネットの攻勢もますます強まっている。

 ヤマダもウェブを強化して需要の取り込みを図りながら、リアル店舗ではコンサルティング機能を高めて、ネットとの差異化を図ろうとしている。国内では直営店が978店舗、FC店が1万1,780店舗(20年9月末現在)というネットワークを活性化させるため、最近、力を入れているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)とFintech(フィンテック)。

 DXにおける具体的な取り組みとして、携帯用タブレット端末を使って、接客品質の向上とその平準化に加え、顧客情報を基にビッグデータを活用することで、それぞれの顧客ににあった高付加価値のある提案を行っていく。

 また、電子棚札を21年3月期中に全店に導入し、専門店のネット価格をトラスト(信頼)価格でリアルタイムに対応して、魅力あるプライス表示に挑み、 業務効率の改善にもつなげていく。

 フィンテックでは20年10月、住信SBIネット銀行による「NEOBANK®」を利用した新たな金融サービスの実現に向けて始動した。6,000万人のアクティブ会員を活かし、「ヤマダ経済圏」の実現を目指す。また、多様なキャッシュレス決済への対応に加え、独自の顔認証決済 「ヤマダPay」を導入し、利便性を向上させる。

 ヤマダHDの直近の業績は好調だ。21年3月期第3四半期は、前期の消費増税特需の反動減や新型コロナ感染症による都市部の来店客数の減少があったものの、郊外店舗の来店客数ならびにEコマース需要の増加により全体的には好調に推移した。

 通期の見込みでは、売上高は前期比7%増の1兆7,190億円と従来計画の同3%増の1兆6,600億円から上振れしし、営業利益は同96%増の752億円へと計画比137億円の増額修正となった。売上高営業利益率も4.4%と前期比で約2ポイント改善し、純利益は同30%増の320億円の見込み。2期連続の増益となる予定だ。

 小売業全体でのポジショニングでは、イオン、セブン&アイ、ファーストリテイリングにつぐ4位。しかし、中長期的に見れば予断を許さない。次の世代に向けて成長を担保するための種はすでに撒かれているが、順調に育って収穫できるかについては必ずしも楽観視できない。

 ヤマダHDは、企業の持続的成長を基本方針として掲げ、高度化・多様化する消費者ニーズに素早く対応することを基本としている。経営指標として、売上高経常利益率5%以上を目標に掲げて、常に「お客様(市場)第一主義」の目線で経営理念である「創造と挑戦」「感謝と信頼」を実践し企業価値を高め、キャッシュ・フローを重視したローコスト経営に取り組んでいる。また、家電流通業界のリーディングカンパニーとして、CSR経営を積極的に推進し、社会に貢献できる強い企業を目指している。

 小売業が直面している人口減少による市場の収縮という逆風のなか、住まいのあらゆることにコミットして需要を取り込み、持続的成長を実現しようとしているヤマダHD。展開する事業それぞれの領域でシェア拡大を図りながら、トータルでライフスタイルを提案して足元のニーズや要望にきっちり応えることができるか、その真価が問われている。

(了)

【西川 立一】

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