2024年11月20日( 水 )

世界平和の基盤としての経済~コロナ後の世界経済と平和の構築(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
名古屋市立大学22世紀研究所・特任教授 中川 十郎 氏

 政治、文化、平和の基盤は経済である。平和の基盤である世界経済がグロ-バル化した世界で急激に感染拡大したコロナ・パンデミックにより、世界は戦後最大の経済不況にあえぎつつある。コロナ後の世界経済をいかに立て直し、格差のない社会と世界平和を希求すべきか。格差拡大をもたらしつつある資本主義の再構築も含めて、経済の視点から平和問題を論じる。

(1)コロナ禍の現状

 2月12日現在、世界全体の新型コロナウイルス感染者数は、米ジョンズホプキンス大のデ-タによると1億800万人弱、死者数240万人弱だ。国別では、米国が感染者2,740万人弱、死者47万人強と最も多い。

 感染者数は、インド1,088万人(死者16万人弱)、ブラジル971万人(死者24万人弱)、メキシコ200万人弱(死者17万人強)、英国400万人(死者11万6,000人弱)、イタリア268万人(死者9万3,000人弱)、フランス350万人弱(死者8万人強)、スペイン300万人強(死者6万4,000人強)、ドイツ232万人強(死者6万4,000人強)とインド、ブラジル、メキシコを除けば欧米が圧倒的に多い。

 アジアでは、感染者数はインドネシア119万人(死者3万2,000人強)、フィリピン54万3,000人強(死者1万1,500人弱)、日本41万2,500人強(死者6,800人)、中国10万人強(死者4,800人強)。日本の感染者は中国の4倍以上に増加しており、日本のPCR検査が諸外国に比べて極端に少ないことも含めて問題である。

 世界銀行は、変異した新型コロナウイルスの感染も拡大しつつあり、発展途上国ではとくにサブサハラ地域を中心に、医療設備の不足、医療体制の不備により、コロナ禍の影響で困窮が一段と加速し、保健のみならず、若者の教育にも甚大な影響を与えていると警告を発している。発展途上国の平和構築にも影響を与えているため、早急なる対応策が望まれる次第だ。

(2)世界経済の現状と見通し

 世界銀行によると、2020年の世界のGDPは前年比4.3%減で、21年も同4%増にとどまるとの見通しだ。先進国は20年に同5.4%減、21年に同3.3%増。米国は20年に同3.6%減から21年には同3.5%増に改善する見込みだ。大きな打撃を受けているユーロ圏は20年が同7.4%減、21年が同3.6%増。日本は20年に同5.3%減、21年に同2.5%増と米国、ユーロ圏より回復の勢いが弱いことが問題だ。

 コロナ禍をいち早く抑え込んだ中国は、20年のGDP成長率は同2%のプラス、21年は同7.9%増と1人勝ちの状態だ。中国以外の新興・途上国は20年に同5%減。21年は同3.4%増にとどまる見込みである。途上国の政府債務は20年に急上昇し、南米などの債務危機が問題化した80年代後半以降でもっとも深刻である。

 世界銀行は世界的な格差拡大や、新興国の債務危機の危険性について警鐘を鳴らしている。今回の不況について「過去150年間で、2つの世界大戦と世界大恐慌につぐ深刻さだ」との認識を表明。

 かかる状況下、G20は昨年11月に最貧国の債務を減免することで合意した。世銀はこのような国際協調の必要性を強調している。

 経済発展のエンジンとして期待されているアジア新興国の21年の経済成長率は最近のIMFの予想では同8.3%増と欧米を大きく上回る。マネーの流入も活発になっている。国連主導のSDGsやESG投資も動き出している。先進国のESG投資が加速するとさらなる発展が見込まれるだろう。

(つづく)

主要参考文献:
1.『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』近藤大介、講談社現代新書、2021年1月
2.『人新世の「資本論」』斎藤幸平、集英社新書、21年1月
3.『菅政権と米中危機』手嶋龍一・佐藤 優、中公新書ラクレ、20年12月
4.『地政学』奥山真司、新星出版社、20年10月
5.『シルクロード世界史』森安孝夫、講談社選書メチエ、20年9月
6.『スーパー大陸 ユーラシアの地政学』ケント・E・カルダ、潮出版社、19年11月
7.『最新 世界情勢地図』パスカル・ボニファスほか、ディスカヴァー・トゥエンティワン、19年3月
8.『人間の経済』宇沢弘文、新潮新書、17年4月
9.『茶の本、日本の目覚め、東洋の理想』岡倉天心、ちくま学芸文庫、12年6月
10.『ユーラシアの地政学』石郷岡 建、岩波書店、04年1月


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

(中)

関連記事