本社売却、史上最大の赤字・・・大きく揺れる電通(3)
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「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす 奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし、猛き者もついにほろびぬ、ひとへに風の前の塵におなじ」(平家物語)。
新型コロナウイルスの猛威に晒され、再び緊急事態宣言に揺れるなか、衝撃的なニュースが飛び込んできた。広告業界の巨人・電通グループが、ステータスシンボルとしてきた本社ビルを売却するというのだ。「猛き者もついにほろびぬ」。「電通王国」崩壊の鐘の声か。権謀術数を振るう帝王として小説のモデルに
鷹匠裕著『帝王の誤算 小説 世界最大の広告代理店を創った男』(角川書店刊)は、権謀術数、策略と欲望渦巻く広告業界の舞台裏を描いていると話題になった。
主役は日本最大の広告代理店「連広」(電通)の城田毅(成田豊)。花形部門の新聞媒体部を歩き、営業統括の常務取締役に就任。さまざまな事業の陣頭指揮を執る。
各業界のトップ企業の広告扱いを独占、業界2位「弘朋社」(博報堂)の蹴落としなど、時にはブラック人脈も使い権謀術数を振るう。満を持して社長に就任。都知事選への介入、日韓W杯の実現、不祥事隠蔽、腹心の裏切りと見どころ満載。フィクションならば「電通の暗黒史」といったところだ。
著者は博報堂の元社員だっただけに業界に通じており、「電通の帝王」に恨み骨髄のところがある。たとえば、こんなくだりだ。
トモダ(トヨタ)の高級車「マークZ」の広告は、連広(電通)が一手に扱っていたのに、弘朋社(博報堂)が勝ち取った。怒った連広の城田(成田)は奇策を打つ。社員を使って、次々に購買予約をさせた。会社から支援金を奮発した。さらに、パブリシティ費用を連広が負担して、雑誌や新聞といったメディア各社に「新マークZはすばらしい」という記事を書かせまくる。
すると、どうなったか。生産が追いつかなくなって、トモダは、手に入らないものを大々的に広告することは消費者への不義であるとして、マークZの広告キャンペーンを中止。すでに押さえてあった広告枠は、別の車種に切り替えたという。広告業界の凄まじい抗争を描いて迫力満点だ。
「天皇」と呼ばれた成田豊氏は、今日の「電通王国」を築いた功労者であるが、成田氏が敷いたグローバルシフトが「電通王国」の崩壊をもたらすことになる。
「のれん」と無形資産は純資産に匹敵
持株会社電通グループの2020年12月期の連結決算(国際会計基準)は、最終損益が1,595億円の赤字(前期は803億円)と過去最大だった。売上高にあたる収益は前期比10%減の9,392億円、営業損益は1,406億円の赤字(前期は33億円の赤字)。営業損益、最終損益とも2期連続の赤字だ。
大赤字の原因は、海外企業のM&A(合併・買収)に関連して、「のれん」の減損損失を計上したことによる。「のれん」とは、電通が買収を進めた企業価値のうち、無形の営業資産が占める部分を指す。具体的には、その会社のもつブランドや取引先関係、ノウハウや営業権など多岐にわたる。電通の財務諸表の最大の特徴は、国際会計基準による「のれん」と無形資産の計上にある。
電通の2020年12月期における資産額は3兆3,804億円だが、このなかには「のれん」5,933億円と無形資産2,071億円が含まれる。その疑似資産の合計は8,004億円。同期末の資本合計(純資産)8,203億円に匹敵する。
電通は日本有数の「のれん保有企業」なのである。どうして、こんな歪な財務内容になったのか。
(つづく)
【森村 和男】
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