本社売却、史上最大の赤字・・・大きく揺れる電通(5)
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「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす 奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし、猛き者もついにほろびぬ、ひとへに風の前の塵におなじ」(平家物語)。
新型コロナウイルスの猛威に晒され、再び緊急事態宣言に揺れるなか、衝撃的なニュースが飛び込んできた。広告業界の巨人・電通グループが、ステータスシンボルとしてきた本社ビルを売却するというのだ。「猛き者もついにほろびぬ」。「電通王国」崩壊の鐘の声か。代理店ビジネスからインターネット広告に転換
電通グループはビジネスモデルの転換を図る。旧来型代理店ビジネスからの脱却だ。旧来型代理店ビジネスの海外子会社の統廃合を進める。度重なる海外事業の買収で、160を超えた現地広告会社のブランドを6つに統合して、事業を効率化する。
ここ数年、傾注してきた消費者に関するさまざまなデータを活用したデジタルマーケディングを中心とする業態への転換を急ぐ。旧来の広告からインターネット広告に転換するということだ。
電通グループがまとめた2020~22年の世界の広告市場成長予測によると、拡大が続くインターネット広告が21年の広告費の媒体別シェアで初めて50%に達するとしている。電通がドル箱にしてきたテレビは30%を割る。ビジネスモデルの転換を図る理由だ。
だが、20年12月末現在の「のれん」が5,933億円、無形資産が2,071億円ある。買収した海外広告会社の統廃合を進めるためには、資産に計上されている「のれん」や無形資産を償却処理しなければならない。純資産8,203億円が減額される事態だ。
かつて無借金を誇った「電通王国」が崩壊に向かう転換点になるだろう。M&Aがもたらす「のれん」の怖さである。
電通がくしゃみすると、メディアは風邪をひく
巨大広告代理店・電通の力は、メディアが報道する内容をコントロールできることにある。意図する報道をした見返りに、次の月の広告を倍にする。収入の大半を広告に依存しているテレビや新聞などのメディアにとって、喉元を抑えられているようなものだ。
『しんぶん赤旗』が昨年9月に連載した「巨大電通の漆黒」は、電通がもつ凄まじい力を報じている。広告に頼らない政党機関紙だからやれた。
連載(5)(20年9月19日付)に、こんなくだりがある。
「電通とライバル関係にある博報堂OBは、電通を『底知れない会社だ』と言います。『幅広い人脈をもち、全業種・全企業を網羅している。電通がくしゃみすると、メディアは風邪をひくといわれるほどメディアへの影響力は強い』と、その絶大な影響力に舌を巻きます。
メディア関係者は朝3時、4時まで接待漬けにあうことも。企画案を出させれば、トラックいっぱいになる─―。業界の間では、電通に関してこんな逸話すらあります。
創業以来119年の歴史を持つ電通には、かつてメディアへの“工作機関”が存在しました。以前、電通の雑誌局次長だったFにちなみ「F機関」と呼ばれていました。電通のクライアントの不祥事をもみ消す目的で、週刊誌に別の情報を報道させ、不祥事から世論の目をそらすといいます。雑誌社には協力に対する見返りも用意されていました。
『半世紀以上前の話だよ。(Fのような人が)仮に今も存在していれば、電通の不祥事がメディアに晒されることはない』と、電通OBは言い切ります」。
高橋まつりさんの過労死自殺(16年)をきっかけ、電通をめぐるさまざまな問題があぶり出された。持続化給付金の委託事業をめぐる税金の「中抜き」疑惑、東京五輪の買収疑惑。ここにきて、メディアがこぞって報じた。電通OBが嘆くように、電通の神通力が衰えてきたことを示している。
トドメが“電通の顏”といえる汐留本社ビルの売却。巨大な黒子企業「電通王国」の崩壊を世間の目に晒したのである。
(了)
【森村 和男】
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