【コロナで明暗企業(2)】スシローグローバルホールディングスの快進撃~牛丼の吉野家から持ち帰りすしの京樽を買収する「プロ経営者」水留浩一氏(中)
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「捨てる神あれば拾う神あり」。このことわざの意味は、一方で見捨てる人がいるかと思うと、他方で救ってくる人がいる。世間は広く、世の中はさまざまだから、くよくよすることはない(『広辞苑』)。
新型コロナウイルスの影響を強烈に受けた外食業界は、明暗がわかれた。回転ずしの(株)スシローグローバルホールディングスが、牛丼の(株)吉野家ホールディングスから持ち帰りすしの(株)京樽を買収する。「捨てる神あれば、拾う神あり」の図だ。スシローは内紛、乗っ取り、転売の歴史
(株)スシローグローバルホールディングス(以下、スシローGHD、旧・(株)あきんどスシロー)は内紛、乗っ取り、転売の歴史であった。「スシロー」は清水義雄氏・豊氏の兄弟が1975年に大阪市阿倍野区でカウンターだけの立ち食いすし屋「鯛ずし」を創業したのが始まり。しかし、兄弟喧嘩が勃発し、2007年3月、牛丼チェーン「すき家」を運営する(株)ゼンショー(現・(株)ゼンショーホールディングス)が、突如、発行済み株式の27.2%を保有する筆頭株主として登場した。ゼンショーが取得した株式は、弟の豊氏とその家族が保有していた分だ。
兄の義雄氏は、敵対的買収を撃退するためにホワイトナイト(白馬の騎士)を招く。投資ファンドのユニゾン・キャピタル(株)である。ユニゾンによるゼンショー撃退作戦は、MBO(経営陣が参加する自社買収)によるあきんどスシローの株式の非公開化。ユニゾングループはスシロー株式のTOB(株式公開買い付け)を実施。スシローの発行済み株式の64.08%を取得して、ゼンショーを撃退。09年4月、東証二部に上場していた、あきんどスシローは上場廃止になった。
12年9月、ユニゾンは保有している全株式を英投資ファンドのペルミラに譲り渡した。譲渡価格は日本円に換算して786億円。ユニゾンは541億円の売却益が出た。ユニゾンはホワイトナイトとして破格の報酬を得た。あきんどスシローは英国資本の回転すし店となった。
日本航空副社長を務めた「プロ経営者」の水留浩一氏
ペルミラは15年2月、会社更生法を申請した日本航空(株)副社長などを務めて「プロ経営者」として評判の水留浩一氏をあきんどスシロー社長に送り込んだ。
水留氏は1968年1月26日生まれ、神奈川県出身。東京大学理学部卒業。学生時代に励んだ添乗員のアルバイトでは毎回、40人近い参加者の顔と名前をすぐに暗記。進んで、マイクを握ったり、女性客の手を取ってダンスをしたり、率先して盛り上げ役を買って出た。
卒業後、(株)電通で勤務した後、アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア(株))を経て、欧州を代表するコンサル会社のローランド・ベルガー日本法人に入社した。企業・事業再生を専門とするグループで数多くの再生案件を手がけた企業再生のプロだ。
2009年には官製ファンドの(株)企業再生支援機構(現・(株)地域経済活性化支援機構)の常務に就き、翌年に会社更生法で再生中の日本航空の副社長に就任した。
水留氏の名前が経済界に知られたのは、日本航空の副社長に就いてからだ。10年12月、会社更生手続き中の日本航空は経営体制を見直した。京セラ名誉会長の稲盛和夫会長のもと、管財人である企業再生支援機構と京セラが支える体制を鮮明にした。副社長には支援機構常務の水留氏が就任した。
時に水留氏、42歳。「水留、WHO?」(水留とは誰か?)という声が挙がった。法的整理という劇薬を使っただけに副作用は強烈だった。整理解雇は「御用組合」のメンバー以外を狙い撃ちにした、管財人の企業再生支援機構による不当労働行為と批判され、副社長・水留氏は国会に喚問された。5,200億円に上る債権放棄を迫られた銀行団は、日航株の再取得を求める水留氏ら支援機構の要請をあっさり断った。
12年9月、日航は再上場をはたした。支援機構は保有株の売却で3,000億円の利益を上げたのに、高揚感はなかった。再建役として支援機構が副社長に送り込んだ水留氏らは、12年春、相次いで日航を去った。水留氏は、政治主導によるJALの早期の再上場は意図に反すると考えたのではないか。日航の再生経験は苦いものだったようだ。
日航の副社長を退いた水留氏は、アパレルの(株)ワールドに転じ専務執行役員に就いた。
ペルミラの出口戦略としてのスシローの再上場
あきんどスシロー(大阪府吹田市、現・スシローGHD)を買収した英投資会社ペルミラは、ヘッドハンティングした水留氏を15年2月、社長に送り込んだ。水留氏の使命は、ペルミラのエグジッド(出口戦略)として、あきんどスシローを上場させること。
持株会社スシローGHDは17年3月、東証一部に再上場した。09年に非上場になって以来、8年ぶりの市場復帰だ。
同年9月、スシローGHDはコメ卸の(株)神明ホールディングス(以下、神明HD)、元気寿司(株)と資本業務提携をした。このとき、ペルミラは段階的に持ち株を神明HDに売却。神明HDはペルミラからスシロー株の33%を379億円で取得した。これでペルミラのエグジッドは終わりを告げた。
ペルミラはユニゾンからスシローGHD株を786億円で買収した。金融機関から調達した買収資金の半分は、スシローGHDへの貸付金となるLBOファイナンスだと考えられている。実質的にペルミラが拠出した金額は390億円程度。ペルミラは上場時の売り出し、神明HDに売却した分を含めるとおよそ1,200億円を得たことになる。投資効果は約3倍。会社転がしの醍醐味である。
スシローGHDの筆頭株主となった神明HDは、傘下の元気寿司とスシローGHDの経営統合を主導した。しかし、19年6月、経営統合は白紙に戻った。神明HDがスシローGHD株を売却して資本提携を解消した。
スシローGHDは業績が右肩上がりで、水留社長が経営に自信を深めていたことが破談の理由とされた。ペルミラという重しがなくなり、再上場を目的とする雇われ社長ではなく、自分の才覚でスシローを一段の高みに引き上げたかったのだろう。
(つづく)
【森村 和男】
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