2024年09月29日( 日 )

電気自動車シフトで、電池業界では「ハイニッケル戦争」が進行中(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉 明鎬 氏

 電気自動車の普及が本格化しつつある現在、電気自動車の「心臓」ともいえる電池に対して関心が高まっているのは当然の結果であろう。電池の容量を大きくしつつ、なるべく小型化、軽量化しようとする技術開発競争が全世界で繰り広げられている。今回は、電池の正極材であるニッケルについて取り上げたい。

ハイニッケルで勝負に挑む韓国の電池会社

 前編で説明したように、電池のなかでは正極材が大事であり、正極材のなかで注目に値するのはニッケルである。ニッケルの容量を高めることでエネルギー密度が決まるからだ。ニッケルの容量が大きくなればなるほど、さらに多くのリチウムイオンが流れることができるようになる。そのため、高容量のニッケルを電気自動車に搭載すると航速距離が長くなり、電池は小さくなる。加えて、ニッケルを高容量にすると、価格変動性が大きく高価であるコバルトの容量を減らすことができ、価格競争力も上がる。

 しかし、高容量のニッケルはいいことずくめではない。ニッケルは容量が大きくなればなるほど、負極に移動するリチウムイオンの量が増えるが、それだけ不安定になり問題が発生しやすくなる。原料の合成や水分の制御などが難しくなるようだ。

 韓国の電池会社3社は「夢の電池」と言われている全固体電池が大量生産されるまでの過渡期において、ハイニッケルで勝負しようとしている。コバルトの容量を減らし、ニッケルの容量を高めたハイニッケルを用いて、中国電池メーカーとの競争で優位に立とうとしている。

 また、ニッケルの容量を高める代わりに、マンガンやコバルトの容量を減らすと、電池としての安全性と出力は低くなる。そのため、コバルトの容量を減らす一方、その代わりにアルミニウムを入れる会社もある。アルミニウムは価格がコバルトの20分の1と低く、出力を高める特性がある。いずれにしても、ニッケルの容量が80%以上であればハイニッケルと呼ばれるが、ハイニッケルにするとコバルトの容量が減り価格競争力も高まるので、市場で注目されている。

中国企業の動向

 韓国企業はハイニッケルに注力しているが、中国を代表する電池メーカーであるCATLは、やはりコバルトを使わないリチウムリン酸鉄(LFP)電池をテスラの「モデル3」の中国市場向けに供給している。一方、リチウムリン酸鉄電池はハイニッケル系の電池に比べてエネルギー密度が低く、航速距離も短いため、高性能電池としては不向きであるという専門家の評価もあり、CATLもハイニッケル電池の開発に取り組んでいるようだ。その証拠として、同社は世界のニッケルの25%を埋蔵するインドネシアに25億ドルを投資して電池工場の建設を計画している。

ニッケル価格の急落

 ニッケルはこのように電池の正極材として使用の増加が見込まれているので、ニッケル価格も当然のことながら高騰していたが、その価格が3月4~5日に急落した。ここ10年間でもっとも急激な下落であった。3月7日のロンドン金属取引所の発表によると、前週のニッケルの先物取引では1tあたり2万110ドルだったが、5日には1tあたり1万6,379ドルとなった。

 このようにニッケル価格が下落するようになった背景には、中国のニッケル生産最大手である浙江青山鋼管が、ニッケルを製錬する際に発生する中間生産物から正極に使うニッケルを開発できそうだと発表したからだ。これが実現すると、ニッケルの供給量は大幅に増え、需給バランスが緩むと見込まれているが、一部の専門家はこの開発が実現する可能性は低いと評価している。

 電気自動車が普及すればするほど、ニッケルの需要が増加することが予想されるため、ハイニッケル電池やニッケルの動向に注目が集まっている。ハイニッケルで市場シェアと獲得したいと考えている韓国企業、リチウムリン酸鉄で勝負している中国企業、全固体電池を開発し電池開発の流れを大きく変えようとする日本企業という3国間の競争は、どのような展開を迎えるのだろうか。その動向に注目したい。

(了)

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