バイデン政権下の米中関係と習国家主席の来日計画の行方(中)
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国際政治経済学者 浜田 和幸
2028年までにアメリカを経済規模で追い抜く
中国は今後も経済発展を主要政策目標に掲げ、近代国家に向けての歩みを加速させるに違いない。西側諸国のコロナ禍による混乱を尻目に、中国は今年7月、共産党結党100周年を迎える。この3月5日からは年に1度の全国人民代表大会(全人代)が北京で開幕する。今後5年間の経済・社会政策の方向性を明らかにする「第14次5カ年計画」も公表される予定である。同時に、2035年までの15年間にわたる長期目標も打ち出されるはずだ。
習近平氏は13年に国家主席に就任。そのときの最大の公約が「20年までに貧困をなくす」であったが、その公約を実現した。次なる公約は「2035ビジョン」である。35年までに「経済倍増」を実現し、「社会主義国家の近代化を達成する」という。そのための具体的な目標も相次いで打ち出されている。
具体的には、162の新空港を建設し、総計400の空港を設置する。また、高速鉄道を20万キロ延長するという。これは世界を5周する距離に相当する。加えて、高速道路も46万キロ、内陸部水路も2.5万キロ延長するという遠大な構想が目白押しだ。
こうした国内向け投資を通じて、「28年までにアメリカを経済規模で追い抜く」(予定を7年前倒し)との見通しを大々的に宣伝している。中国の宣伝攻勢にはアメリカもたじたじとなっているようだ。
とくに、「習近平国家主席と個人的にもっとも親しい西側指導者だ」と自負するバイデン大統領は、「このままではインフラ投資や公共交通の分野でアメリカは中国に抜かれてしまう」と危機感を露わにしている。議会関係者との内部の会議で、「急いで動かねば、中国においしいとこ取りされる」とまで発言しているありさまである。
バイデン大統領が危機感を抱くのももっともである。なぜなら、中国の先端技術への投資戦略は、アメリカを圧倒する勢いで拡大しているからだ。たとえば、クリーン・エネルギーや電気自動車でも、時速600㎞のマグレブ高速電車でも、中国は次々と新技術の実用化を進めている。GPSでも中国製が躍進中だ。これらはすべて国内市場強化のために違いない。
実際、中国は科学研究や開発費で米国を凌駕しつつあるといっても過言ではない。EVにも進出を図る百度をはじめ、10億人のユーザーを誇るウィチャット、世界最多の発明特許申請を続けるファーウェイなど、従来アメリカが独占してきたAIの分野でも中国企業は存在感を強める一方である。逆にいえば、世界が中国を必要とする状況が生まれつつあるといえるのかもしれない。
バイデン政権に挑戦状を突き付ける
中国政府の予測では、「今後、人、モノの移動が毎年2~3%拡大し、郵便物は6.3%の増加が見込まれる。こうした需要に応えるため、世界主要都市ならどこでも3日以内に配達できる体制を構築する」とのこと。鳴り物入りの「一帯一路」計画にしても、中国と世界を陸、海、サイバーとあらゆる側面で結び付けようとするものだが、「メイド・イン・チャイナ」の製品を輸出するだけではない。国内の経済成長に欠かせない海外からのエネルギー確保にも役立てることが期待されているのである。
こうした対外関係を拡大させるために、これまでは年率最低6%の経済成長が国是であった。国内的な政権維持にとっても不可欠と思われてきた。1978年の鄧小平以来の改革開放政策の要である。しかし、現在の習近平国家主席の下で、「これまでのような成長率最優先の政策はもはや必要ない」との判断が下されたようだ。
今後は国内の生産基盤を重視し、「外国からの制裁に影響を受けない経済体制を構築する」という路線転換にほかならない。そのために、共産党主導の強化が不可欠となりつつある。たとえば、アリババの創業社長ジャック・マー氏への調査が行われた模様で、同氏の動静が一時不明となったことも、政府の方向転換による影響なのかもしれない。
とはいえ、中国の国内市場重視の方向性が打ち出されれば、海外の企業は中国国内での生産や販売活動に力を入れざるを得なくなるだろう。実際、米フォードの「ムスタング・マーチーE」と命名されたSUVは、21年後半から中国国内で生産されるという。1回の充電で378キロ走行するというフォード自慢の新モデルである。
現在、同モデルはメキシコで生産され、米本土へ輸出されている。しかし、フォードは中国を新たな生産拠点にシフトすることを決定。そのうえで、「Best of Ford, Best of China」と銘打った中国重視のキャンペーンを開始するという力の入れようである。
電気自動車(EV)で世界最大の売上を誇るテスラでは、「モデル3」を中国市場に早くから投入してきた。結果的に、20年にもっとも売れたEVはテスラ製であった。同社は、上海テスラの工場で「モデルY」の生産を開始すると発表。富裕層が急速に増加している中国市場をもっとも重視していることは間違いない。
日本では知られていないが、アメリカの大富豪でYコンビネーター社長のサム・アルトマン氏は、「サンフランシスコより北京のほうが新しい突飛なアイデアを議論できる土壌がある。生産には悪い条件やアイデアも検討すべきだが、中国にはそれがあるのが強みだろう」と話している。常識に囚われないアメリカの投資家にとっては、制約や困難がある市場こそ、ビッグチャンスをもたらすというわけだ。
こうした中国からの挑戦を受けて、バイデン政権は対中戦略を強化する動きを鮮明に打ち出す一方で、「アメリカの国益にかなう場合には、中国との協調も必要になる」との姿勢も見せている。具体的には、環境政策、とくに地球温暖化防止に中国の関与が不可欠との認識である。
世界でもっとも多くのCO2を排出しているのがアメリカと中国であり、両国が積極的に取り組まなければ、パリ協定に復帰したとはいえ、バイデン政権としても環境問題への対応が片手落ちにならざるを得ないからだ。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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