2024年07月16日( 火 )

【ヒット化粧品の舞台裏】超ロングセラー「馬油といえばソンバーユ」、激動の時代も「変えない」という選択(前)

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 トレンドの変化が激しい化粧品業界。毎年、多くの新商品が発売されるなか、変わらずに長く使い続けられている化粧品もある。30年以上のロングセラーであり、日経POS情報で平成の売上No.1(ボディーオイル部門)となったヒット化粧品「ソンバーユ」の秘密に迫る。

社主の体験がきっかけに

 (株)薬師堂(福岡県筑紫野市)の社主である直江昶(なおえ・とおる)氏が日本で初めて馬の油を商品化した「馬油」は、仕事中に大やけどを負った自らの体験がきっかけで生まれた。戦後間もないころ、近所の農家から教えてもらい、馬の油を塗ったところ、効果を感じたという。その後、馬の油の皮膚を守る効果などについて研究を重ねた。

(株)薬師堂取締役・高橋光晴氏
(株)薬師堂取締役・高橋光晴氏

 馬油の化粧品原料として厚生省(現・厚生労働省)許可を取得するまでは、薬師堂グループの(株)筑紫野物産研究所が「馬油」という商品名の食用油を1971年から販売してきた。88年に日本で初めて馬油として許可を取得して以来、薬師堂が30年以上にわたり、スキンケア化粧品「ソンバーユ」を販売している。現在は、直江和代氏が代表を務め、「ソンバーユ」シリーズの年間販売数は100万本を超える。

 馬油には経験則上、さまざまな効能があるとわかっているが、化粧品としての特徴は(1)保湿力に優れていること、(2)民間で長く使われてきた歴史があること。ターンオーバーを繰り返す肌の「美しさ」は、すこやかさがあってのことだ。馬油を肌に塗ると、肌の皮脂膜と混ざって肌の乾燥を防ぎ、うるおいを維持し、肌をすこやかに保つ。

 薬師堂取締役・高橋光晴氏は、「水分と油分が十分に肌に保たれるようにケアすることが、肌をきれいに保つ秘訣です」と話す。流行に流されず、このシンプルな効果に着目し続けてきた商品だからこそ、ロングセラーになっているのだろう。

「善意のクチコミ」によって広がる評判

 肌は年齢とともに乾燥しやすくなり、保湿ケアの必要性が高まるため、年齢に合わせて自分に合う使い方をしている利用者も多いという。化粧品は毎日使うことから、「ソンバーユ」は1,000~3,000円程度の手ごろな価格に設定。この点も長く使い続けやすく、気軽に身近な人に紹介しやすい理由となっている。

 「長く使っていて、見返りなくその良さを自然に伝えたいという『善意のクチコミ』で評判が広まることが、何よりも大事だと考えています。化粧品は使った結果、肌の調子がどうかということがもっとも大切で、良い商品だと感じた場合は身近な人に勧めるケースが多いです。勧めた人にとっては、伝えた相手が美容効果を感じて喜んでくれることもまたうれしいものです」(高橋氏)。

 ロングセラー商品であるゆえに、母から娘や、祖母から3世代にわたり使っているという事例も多い。家族は肌の調子が似ている場合もあり、デジタル化時代であっても、アナログなクチコミで利用者が生まれていることは間違いないだろう。

 社主の直江昶氏が「人間は何のために生きているのか?」という人生論を基に、独自の視点による近況報告を年2回届けていることも愛用者にとって印象深く、販売初期から多数のファンを生んできた。

「ソンバーユ」(左:自社通販サイトなどの通販向け、右:ドラッグストア向け)

30年経った今も製造方法を変えず

 「ソンバーユ」の原料となる馬の脂肪は、食用馬から馬刺しなどにする馬肉を取り除いた後に、副産物として産出されるものだ。余ったものを有効活用しているともいえる。

 「ソンバーユ」の製造では、馬の脂肪を加熱して溶かした後に熟成が進み、液状馬油と固形馬油に分離するまで2年を要する。とても根気のいる地道な作業が求められる。「今も、創業者の直江昶氏が研究を重ねてたどり着いた方法を変えずに、製造を続けています」(高橋氏)。液状馬油と固形馬油は精製後に製品化される。それぞれ使用感が違うため、液状や固形タイプなどの商品として販売している。

 油分を含む化粧品では、同じ原料を使った場合でも製造工程の工夫やノウハウによって出来上がった製品の使い心地や品質が大きく変わることがある。気に入っていた化粧品が製造上の変更により、使い心地が変わってしまったことが原因で、長年の顧客が離れてしまうケースもある。何十年も同じ品質を保つ工夫をしていることも、利用者が長く安心して使い続けている理由の1つと考えられる。

 高橋氏は「良い商品をつくることで、積極的に営業をしなくてもその良さを実感してもらい、お客さまに自然と買っていただけることが何より大事だと感じています」と話す。パッケージデザインも長年ほとんど変わっていない。

(つづく)

【石井 ゆかり】

(後)

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