2024年12月23日( 月 )

台湾のコロナ抑え込み成功の理由とは確固とした指導と国民との信頼構築(後)

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台北駐福岡経済文化弁事処 処長(総領事) 陳 忠正 氏

 台湾はもともと中国との往来が非常に活発でありながら、新型コロナウイルスの感染者を少数に抑え込み、コロナ以前とほぼ同様の経済・社会活動を展開できている数少ない成功例の1つ。コロナ禍で各国政府は感染症に対する防疫と経済の両立を求められたが、台湾がとった手法は初期段階における防疫の徹底であった。台湾が防疫を優先した理由とウィズコロナ下の経済・社会状況について、在福岡総領事館に相当する台北駐福岡経済文化弁事処の陳忠正処長(総領事)に話を聞いた。

防疫の徹底後に経済活動を再開

 ――経済活動が再開されたのはいつごろでしょうか。

陳 総領事
陳 総領事

 陳 昨年6月です。陳大臣は当初から、防疫を経済よりも重視する姿勢を徹底しました。その時期、このままでは経済が立ち行かなくなるとして、経済活動の早期の開放を望む市民はたくさんいましたが、陳大臣は56日(潜伏期間4回分)連続で新規感染者がゼロとなってから経済活動を再開するという方針を貫きました。それは、防疫を徹底せずに感染が拡大すれば、防疫がより困難になると考えたからです。

 困難でしたが、陳大臣の政策は政府内、市民から支持されました。6月7日、それまでの56日間に新規感染者が出なかったことに基づき、経済活動が再開されました。その後も状況は安定しており、結果として、昨年台湾は3.1%の経済成長率を達成しました。

 経済と防疫の両立は容易なことではありません。防疫を優先して行えば、感染を抑えられても、その期間は経済上の大きな痛みがともないます。しかし、防疫が不十分であれば、結局、経済面の成果は摘み取られてしまいます。防疫をしっかり行ってこそ、国内の経済活動も十分に行えるわけです。台湾のなかだけですが、観光も自由に行えるようになりました。

 ――防疫重視による経済への影響は?

 陳 多くの零細企業が倒産しています(20年1〜10月の企業倒産件数は2万7.756件(前年比▲22.4%))。また、観光関連業界などは大きな影響を受け閉館した高級ホテルもあります。中華航空、エバー航空などは従業員の給与を削減しています。ただし、防疫を重視して感染を抑えたことにより、国内消費や観光は復調しており、台湾は安全であると世界から認知されており、海外からの直接投資受入れは堅調です。

 空輸業や観光業などは大変な状況ですが、産業全体としては成長しており、とくに半導体などが好調です。大手半導体メーカーの台湾積体電路製造(TSMC)は、茨城県つくば市に研究開発の子会社を設立すると発表しました。これには、米中対立の影響を受け、台湾の半導体メーカーに対して自動車用途の半導体の注文が増え、追いついていないこともあります。

 ――経済支援策にはどのようなものがありますか。

 陳 主な支援策は消費の促進です。「振興三倍券」という商品券は、1,000台湾ドルの商品券を購入すれば、3,000台湾ドル分の消費ができます。GoToトラベルなどのように使用の用途を明確にしたものではありませんが、打撃を受けている飲食店や小売などでの消費の促進を目的としています。

ウィズコロナ下の台湾社会

 ――現在の台湾の社会にはどのような変化が見られますか。

 陳 現在、台湾政府は引き続き、新しい生活(「防疫新生活運動」)を推奨しています。公共交通機関の乗車にはマスク着用が求められ、ナイトマーケットでもマスク着用、ソーシャル・ディスタンスの保持が求められます。

 企業活動でリモートワークはあまり普及していません。台湾では毎朝体温を測定し、問題がなければマスクを着用して出勤、発熱すれば出勤しないという考え方が一般的です。仕事は皆で協力して行うという意識が強く、リモートワークに馴染めない雰囲気があります。長い目で見れば、日本のようにリモートワークが普及していくほうが好ましく、日本のやり方のほうが柔軟だと感じています。

 ――コロナによる駐福岡経済文化弁事処の業務への影響は?

 陳 昨年は多くの活動が中止となりました。台湾の文化紹介、観光促進、経済交流・投資促進などのイベント、台湾に関する講演会などが行えませんでした。2度にわたる緊急事態宣言の発令時には日本政府の自粛要請に従い、訪問などを自粛せざるを得ませんでした。台湾に帰国するとなると、台湾・日本でそれぞれ2週間の隔離が必要となるため、帰国もできず、本国外交部との会議はオンラインで行っています。

20年9月「台湾スマイルフェア」
20年9月「台湾スマイルフェア」

 昨年コロナ禍において実施できた数少ない活動の1つが、九州経済連合会などと連携して9月に実施した「台湾スマイルフェア」でした。今年5月には、より大きな会場で2回目のフェアを実施する予定です。台湾政府が支援する九州大学台湾スタディーズの講義もオンラインに切り替わっています。
 感染拡大を防ぐため、査証などの人員を2班に分け、受付ロビーに多くの人が滞在しないように事前予約制にするなどしています。幸いに館内で感染者は出ていません。

 ――今後の海外渡航の見通しは?

 陳 陳大臣は、各国の感染とワクチン開発の状況に鑑みて、22年の旧正月期には海外との往来を再開できるとの予測を立てています。現在もビジネス、留学、看病、親族訪問を目的とした台湾訪問ビザは申請可能です。林桂龍・交通大臣は、台湾と相手国の双方で7日間感染者がいない状況(0対0)であれば、往来を認める考えを示しており、今年から一部の国との往来を再開できる可能性があります。

 ――日本の感染症対策についてどう思いますか。

 陳 日本は比較的うまくいっていると思います。ホテルなどでは必ず体温測定を行い、アルコール消毒が備えられていて、執務室などもアクリル板でパーティションが設置されており、安心感を与えてくれます。ワクチンの接種も開始されました。今後、暖かくなるにつれて国民の免疫力も上がっていくでしょう。日本は教育水準が高く、自主性が尊重される社会です。そのなかで皆が自身の活動を自粛して、感染拡大に協力している点は称賛すべきです。

 蔡総統は、日本でコロナが収束し、東京オリンピックが無事に開催されることを心から望んでおり、そのために最大限の協力をしたいと願っています。

(了)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
陳 忠正
(ちん・ちゅうせい)
1963年生まれ。国立政治大学外交学科卒、同大東亜研究所で修士号取得。90年台湾外交部入部。慶應義塾大学で日本語研修。2016年9月に台北駐日経済文化代表処総務部長、18年7月から台北駐福岡経済文化弁事処処長(総領事)。

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