【鹿児島市長インタビュー】観光産業を鹿児島市成長のエンジンに 産業振興で支える子どもたちの未来(前)
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第21代 鹿児島市長 下鶴 隆央 氏
昨年12月に行われた鹿児島市長選挙で初当選をはたした下鶴隆央氏(41)。約半数の票を得て乱戦を制した下鶴氏は、戦後の鹿児島市長および県内現職首長として最年少。3期務めた県議としての実績や若さのほか、政策のわかりやすさに加えて提示したビジョンの明確さでも市民を惹きつけた。「外貨を稼ぎ、税収を確保するのは手段。目的は子どもたちの未来を守ること」―強い使命感に裏打ちされた市政方針を聞いた。
コロナ禍収束後を見据え地域資源を磨き上げる
――新型コロナ禍のなかでの最重要課題など、市政運営方針をお聞かせください。
下鶴隆央市長(以下、下鶴) 当面は、なんといっても新型コロナウイルス対策に尽きると考えています。市民の命と暮らし、仕事を新型コロナから守ることを最重要課題として取り組んでまいります。具体的には、感染拡大防止を呼びかけるとともに、社会経済活動の両立についても手当てしなければなりません。
ワクチンの確保も重要です。ワクチン接種は任意ですが、接種を希望されるすべての方々になるべく早く接種できるような体制づくりを進めます。さらに国から確実に情報をとったうえで、ワクチンの安全性などの情報はアップデートして市民の皆さんに開示すること。
あとは経済対策ですが、新型コロナの感染拡大がほぼ1年間続くなかで経済対策としてやるべきことは少しずつ変わってきたと思います。現状で必要なのは、安心して消費できる環境づくりと需要喚起ですね。したがって当初予算には、とくに打撃の大きい飲食業向けのプレミアムポイント事業を入れています。あとは宿泊業向けに県外からの観光客誘致キャンペーン予算も計上しており、さらに需要喚起の取り組みを進めていきたいと考えています。
――感染拡大を防ぐことはもちろん、長引く「コロナ不況」のなか、経済活動の活性化も必要です。
下鶴 私の考える新型コロナ対策のなかには当然経済対策も含まれていますし、すでに次のステージを考える時期に入ったと捉えています。たとえば、観光業を鹿児島市の新たな成長のエンジンとして位置付けていますが、これは急激な人口減少が続くなかで「外貨を稼ぐ」必要があるという認識に基づいたものです。
鹿児島市に限らず、地方自治体が直面するすべての問題に共通するキーワードは「人口減少」です。ここをどう乗り越えるかについては2方向で考える必要があります。1つ目は、人口減少の幅をいかに小さくするかということ。子どもを産み、育てやすくすることで地域内出生率を上げていくことはもちろん、U・Iターンを促進して減り幅を抑える。もう1つは、むこう数十年間人口が減り続けるのは人口動態から見ても避けられない事実であるため、人口減少を所与のものとして、そこにどう打ち勝っていくのかを考える局面に入ったということです。
人口減少が何を意味するのかは非常にシンプルで、域内での消費が減るということなんですね。鹿児島市の人口推計でいうと、2040年には52万人まで減ることがわかっていますが、そうであればその減った分の外貨を稼ぐ必要がある。その手立ての1つが観光だろうと。とくに市外、県外からの観光客を呼び込む必要があります。新型コロナ禍にあって現状でほとんど打つ手がないのも確かですが、むしろこの1、2年のインバウンド誘致に向けた積み重ねこそ、今後大きな差になってくると考えています。つまり、新型コロナ禍が収束してインバウンドが復活した際に、熾烈な地域間競争が始まるわけです。そのときにそこから準備を始めるのか、準備万端ヨーイドン!で全力疾走できるのか、この差がものすごく大きい。だから、今のうちに地域資源を磨き上げておく必要があります。
コロナ後の観光事情を考えたとき、たとえワクチンが普及していたとしても、安い料金で詰め込むようなスタイルはもはや復活しないでしょう。むしろ滞在日数が延びる、宿泊施設の質を上げるなどの付加価値にお金を払うスタイルに向かってしかるべきで、これは地域資源をより高く買っていただくことにつながります。だからこそ今は磨き上げる時期なんだと。そうした認識の下、来年度はインバウンドにどう対応できるのかという調査事業に予算を付けました。
あとはユニバーサルツーリズムですね。障がいをお持ちの方々が気兼ねなく鹿児島に来ていただける仕組みづくりはもちろん大事なのですが、もう1つの視点でいうと、ユニバーサルが大事なのはみんなが通る道だからなんです。高齢になれば誰でも体が動かなくなります。障がいとまでいかなくても体に支障が出るなかで高齢者でも安心して旅ができる状況をつくること、そのことは観光で外貨を稼ぐときに必ず必要になるだろうということで、予算にも反映させました。
海と桜島、古くて新しい鹿児島市の魅力を再発見
――具体的に、鹿児島市の観光の武器とは?
下鶴 1つは食の魅力ですね。食肉については牛も豚も鶏も生産量では全国トップクラスですし、和牛オリンピックで県は総合ナンバーワンをとっています。そしてブランド肉である黒豚や黒さつま鳥。こういった食の充実度と合わせて、鹿児島市がもっと力を入れなければならないのが海と桜島です。
これまで鹿児島市では、海や港を観光資源として活用しようという機運がなかなか生まれませんでした。というのも、高度成長期に鹿児島では海岸を埋め立てて工業団地や工場用地をつくろうという動きがあり、それから数十年を経てほとんどが工業港になったんです。しかし、この期間に日本の産業構造が変わってきました。たとえば、今イオンがある辺り(市内南部、東開町付近)は木材団地と呼ばれていて、かつて外国から丸太を運んできて製材する工場がたくさんありましたが、今木材はほとんど置かれていません。当時は国内の人口増加に連動するように公共施設や住宅などの建設ラッシュがあったために木材が必要でしたが、それが一巡して需要がなくなってしまった。あるいは外国製の安い木材に押されてしまって産業構造が変わってしまったんです。さらにいえば、市内七ツ島には国内最大級を誇るメガソーラー発電所があるんですが、あそこはもともと石川島播磨重工の造船所を誘致して数千人の雇用を創出しようという計画があった場所です。埋め立てが完了した時期は日本の造船業が韓国や中国に負ける時代になっていて、長年空き地が続いていました。
産業構造が変わった結果、今は鹿児島にある地域資源をいかにお金に換えるかという時代に入ったんだと思います。それに合わせてまちづくりは変わっていくはずで、鹿児島市はせっかく南北50㎞の海岸線をもっているのにこれを生かしきれていません。まずは市民の方々に楽しんでもらって、市外、県外、国外の方々にも広げてお金を落としてもらう、そういう仕組みに変えていきます。
もう1つは桜島です。かなりの部分が国立公園に指定されていますので開発規制がかかっていますが、環境省も従来の保護一辺倒から舵を切って、自然を生かしていかにインバウンドを呼び込むかという方向にシフトしている。民間の方々のお知恵をいただきながら、桜島という財産を生かすアイデアをいただければ実現する余地はあると思っています。県民、市民の財産である錦江湾と桜島を生かした観光地づくりを進めていきます。
――県内の観光産業が新型コロナ禍で大ダメージを受けているなか、企業誘致も必要になりますか。
下鶴 企業誘致で私の念頭にあるのは観光とICT(情報通信技術)分野ですね。県議会議員を3期務めさせていただきましたが、その間ずっと鹿児島の強い部分と弱い部分がどこなのかを考えてきました。まず、県内産業の特徴でいうと食品関連産業の比率が高いんですね。これは裏を返せば製造業が弱いということにもなる。ではなぜ製造業が弱いのか。理由はすごくシンプルで、重厚長大産業の場合、原料をもってきて加工して、重量のあるものを東京などの大消費地に運ばなければなりません。だから距離的ハンディがある鹿児島はおそらく不利になるのだろうと。ではどこで勝負するべきなのか。1つは送料がゼロに近づくもので、これがICT産業です。もう1つはもって行けないもので勝負する。これがまさに観光で、桜島は他所にもって行けませんのでここにしかないもので勝負できる。
それ以外の産業をどうするのかという問題もあります。私は、産業振興は域外を相手にするものと市民を相手にするものの2つに分かれると考えています。そうすると、域外を相手にする分野にまずは外貨を稼いで儲けてもらい、あるいは雇用を生んでもらう。そうすると域内で普段使いするお店でさらにお金を落とすようになります。外貨を稼いでおかないと、域内産業をいくらがんばっても新しい店ができたら古い店が潰れるゼロサム型の地域内で食い合う経済が生まれてしまいます。これでは将来を描くことができません。
(つづく)【データ・マックス編集部】
下鶴 隆央(しもづる・たかお)
1980年4月4日生まれ。鹿児島市出身。私立ラ・サール中学校・高校を経て東京大学法学部卒。ITコンサルタント企業に勤務の後、2011年4月に鹿児島県議会議員当選(3期連続)。20年12月、4人が出馬した鹿児島市長選で約43%の票を得て当選。戦後の鹿児島市長および県内の現職首長として最年少。関連キーワード
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