2024年12月23日( 月 )

日米同盟深化、1ドル120~130円視野に~地政学が引き起こす円独歩安(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年4月1日付の記事を紹介。

円安は米国にとっても望ましい

 米国にとっても円安は望ましい。現代の石油というべき半導体・ハイテクハードウェアの生産を中・韓・台に全面依存しているという現実を変えることは必須であるが、円安はそれに合致する。半導体供給では、韓国・台湾・中国に6割依存、スマホに至ってはほぼ100%を3カ国に依存している。なぜこんなことになったのか、それは日本叩き、超円高の結果、日本に集積していたハイテククラスターが韓国、台湾、中国にシフトしたためである。

 米中敵対時代においては、中国・韓国・台湾は潜在的係争地であり、ひとたび騒擾が起きれば米国は3カ国からのハイテク供給は遮断されるという危機的状況にある。米国の日本たたきと超円高の行き過ぎが、アジアの分業構造を米国にとって著しく危険なものにした。米国はそれを修正するはずである。どうすれば安全なハイテクサプライチェーンを構築できるのか、半導体などハイテク生産を米国に勧誘すること、および東アジアのなかでの安全地帯、日本へのハイテククラスターの回帰を促すことしかないのではないか。

 加えて、日本が圧倒的競争力で米国企業を凌駕していた1990~2000年代と異なり、日本の貿易黒字はほぼゼロとなり、ドル余剰はなくなっている。また航空機、スマートフォン、インターネットプラットフォームサービス、先端金融など多くの戦略分野において、米国企業が日本市場を支配している。それらの日本市場を独占している米国企業は、円安の下でも容易に値上げできる。他方、製品を輸入している米国企業は、円安により購入コストが低下する。

 唯一日米企業が米国市場で競合する自動車も、大半の日本自動車会社は現地生産化しており、米国企業に不利には働かない。日本を痛めつける円高は米国にとっても、実はメリットはなくなっているのである。

対ドル以上進行している対ウォン、対台湾ドル、対人民元、対ユーロでの円安

 年初来、円独歩安の様相である。米国経済の突出した回復、米国長期金利の上昇が20年からのドル安を終わらせ、ドル高転換を引き起こしている。円は年初頭の102円台から110円台へと年初比8円の円安となった。日米金利差が拡大し、19~20年日本人の米債投資を抑制してきたドル為替ヘッジコストが急低下し、米国国債投資の採算が改善してきている。金利差+ドル安トレンドが見え、日本人投資家のドル投資復活が復活しつつあるのかもしれない。

 しかし、より重要なことは、ドル高ではなく円安が進行しているということである。日本経済にとって重要な為替レートは、豪ドル、ブラジル・レアル、トルコ・リラなどの投機対象通貨ではなく、貿易市場で競合する韓国ウェン、台湾ドル、米ドル、ユーロ、人民元である。これらの通貨とのレート変化を見ると3つの傾向がうかがえる。まず日足で見て20年以降、円の独歩安が続いている。円はユーロ、韓国ウェン、台湾ドル、人民元のいずれに対しても20年の高値に対して15%前後の下落になっている。対米での8%の下落を大きく上回っている。

 また、週足でみれば、16年から5年続いた円高トレンドは完全に終焉したようである。月足でみれば、円は11年に大天井をつけた後、アベノミクス・黒田日銀の異次元金融緩和によって円安転換したものの、その息切れで再度円高になっていたが20年に二番天井をつけたことが確認される。大天井、二番天井をつけたとすれば、今は長期円安の起点となるのかもしれない。

円安が日本のデフレ、長期停滞のラストプッシュになるだろう

 1ドル120円になれば、日本経済の風景が変わる。世界一、割安な日本がさらに安くなる。観光客は日本に殺到する。日本製品の競争力は強くなる。日本企業の海外利益の円換算益や海外子会社からの配当・技術指導料収入の増価により、企業収益の増益率が跳ね上がる。需給ひっ迫、円安による日本賃金の一段の割安化により、日本で賃金上昇率が高まる。円安進行により、ただでさえ割安の日本物価は一段と安くなり、国際的一物一価水準に向けて価格が上昇する。

菅首相は円安という果実を持ち帰れ

 円高デフレが引き起こした日本の長期停滞は完全に終わる。菅首相が今回の訪米において、円安という果実を獲得してくることが期待される。

(了)

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