東芝・車谷社長が事実上のクビ、CVCと仕掛けた救済策が大炎上(4)
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「策士、策に溺れる」。東芝の車谷暢昭社長が辞任した。事実上の解任である。「ものいう株主」に追い込まれた車谷社長を救済するため、「プロ経営者」の藤森義明氏が英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズと組んで仕掛けた東芝の買収劇。車谷社長は前CVC日本法人の会長、東芝社外取締役・藤森氏はCVC日本法人の最高顧問。車谷社長の「自己保身」のための出来レースと猛反発を招き、失敗に終わった。
武田薬品の社外取締役であるが、アリナミンを取り逃がした
藤森義明氏は関わった企業にCVCキャピタル・パートナーズを呼び込む水先案内人を務める。2016年6月、クリストフ・ウェバー社長の推挙で武田薬品工業の社外取締役に就いた。
武田は、アイルランドの大手製薬メーカーのシャイアーを7兆円かけて買収したことで膨らんだ債務を返済するために、非中核事業の売却を世界中で進めた。
20年8月、一般用医薬品(大衆薬)子会社の武田コンシューマーヘルスケア(株)を米投資ファンド大手ブラックストーン・グループに売却した。売却額は2,420億円。ビタミン剤「アリナミン」や風邪薬「ベンザ」といった武田の顏といえる大衆薬を扱う企業だ。
入札には、ベインキャピタル、大正製薬、そしてCVCも参加し、最も高い価格で応札したブラックストーンが落札した。
21年3月31日、ブラックストーンへの売却手続きが完了。社名を「アリナミン製薬(株)」に変更した。高い知名度を誇る商品を社名に冠することで、ブランド力を維持する。アリナミン製薬の初代社長にはエーザイ副社長を務めた本田英司氏が就任した。
藤森氏は武田の社外取締役に入り込んだが、アリナミンを取り逃がした。
資生堂のTSUBAKIなど日用品事業をCVCが買収
藤森氏は20年3月、資生堂の社外取締役に就いた。マーケティングのプロとして日本コカ・コーラから資生堂のトップにヘッドハンティングされた魚谷雅彦社長は、同じ「プロ経営者」の藤森氏と親しく、社外取締役に招いた。
資生堂は今年2月、ヘアケア商品「TSUBAKI」を含むパーソナルケア(日用品)事業を欧州系大手投資ファンドのCVCに売却することで合意した。売却額は1,600億円。「椿」は資生堂を象徴する花である。「TSUBAKIの売却は資生堂の心を売ったようなものだ」と嘆く声が聞かれた。
売却はTSUBAKIのほか、男性用ブランド「uno(ウーノ)」、ボディーケアブランド「シーブリーズ」などが対象。日用品販売子会社の(株)エフティ資生堂など国内事業を移管する新会社を21年上半期に設立し、7月に全株式をCVC側に譲渡する。
中国など海外10の地域の関連事業も売却したうえで、資生堂は事業運営会社の親会社株式を35%取得するが、連結対象から外れる。
日用品事業の売上高は19年12月期に日本・中国・アジアの合計で1,053億円と、資生堂の売上高全体の9%を占める。販路であるドラッグストアなどで安売りされやすいうえ、不特定多数の個人を対象にマスメディアに大規模な広告を打つ必要がある。
魚谷社長は「日用品はマス広告を使うなどビジネスモデルが化粧品と異なる」と指摘。日用品事業を切り出すことで、強みとする高価格帯のプレステージ、プレミアムなど高価格帯の化粧品に注力するという。
CVCが資生堂の日用品事業を買収できたのは、資生堂の社外取締役に就いた藤森氏の成果である。このように藤森氏がCVCの利益代理人として活動していることがわかる。
しかし、東芝では「二匹目のどじょう」とはいかなかった。「ものいう株主」に追いつめられている東芝の車谷暢昭社長を救済するため、CVCと組んだ東芝の買収作戦は、車谷氏が「保身」のためにCVCと非上場に動いたとして大炎上。車谷氏はクビ。車谷氏が去り、CVCは東芝から手を引くだろう。
仕掛け人の藤森氏は、東芝の役員間で四面楚歌のなか辞任することになる。東芝の迷走劇場で、「策士、策に溺れる」の幕間劇だった。
(了)
【森村 和男】
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