2024年12月23日( 月 )

ストラテジーブレティン(280号)大きな政府の時代、出遅れる日本(後)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は2021年4月26日付の記事を紹介。

イエレン氏を支持する米国の経済学者・エコノミスト

 経済学者でもあるイエレン米財務長官は「歴史的低金利の現在、大規模な経済対策は雇用と経済成長を加速し、恩恵がコストを大きく上回る」と主張し、米国の大半のエコノミストの支持を得ている。これまで貯蓄不足を懸念し、財政赤字を厳しく批判してきたIMF、世銀などの国際機関も主張を大きく転換させている。

世界の思潮変化に遅れる日本

 この急激な世界思潮の変化に、日本はついていけていない。巨額の余剰貯蓄をもちながら、それをまったく生かしていない。日本の経済学者やエコノミストのコンセンサスは、旧態依然たる新自由主義の思考パターンである。世界で最も早く「流動性の罠」やデフレに陥った日本が、インフレと金利上昇を主敵とする新自由主義の政策を遂行してきたのであるから、病が一段と深刻化したのも当然といえる。いかに学者のアドバイスと政治家・官僚の政策選択が間違っていたかが、浮かび上がる。

 ことに財務省は財政赤字の呪縛に囚われ、それで世論誘導を続けている。コロナ対策ではスケールの大きな財政支出が打ち出されたが、産業支援や技術開発による国際競争力強化には大きく後れを取っている。また、経産省は日米摩擦時の米国による産業育成策に対する非難がトラウマになっていて、どのように政府支援を企業競争力向上につなげるかという戦略が描けない。

経済戦略を統括する司令塔が必要だ

 日銀はスイス中銀のように為替水準が不当な自国通貨高だと主張することもしない。貿易黒字がなくなり、物価と賃金が新興国水準まで低下しているのであるから、日本の為替は1ドル110円のレベルであっても、分不相応の円高なのである。1990~2012年までにおける、購買力平価から極端に乖離した懲罰的円高が日本の衰弱を引き起こした。円レートが購買力平価水準に戻っただけでは不十分である。日本再生のためには、購買力平価以上の円安のハンディが必要である。

 米中対決において米国は強い日本経済を必要としているのであるから、不当な円高強要をやめさせる好機が到来しているといえる。円が1ドル120~130円で定着すれば、直ちに日本においてデフレ完全脱却が始まるだろう。

 今の日本には、政治・軍事・地政学・経済金融・技術等の国際競争を統括する戦略中枢、司令塔が必要である。

(了)

(前)

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