2024年12月21日( 土 )

「イーロン・マスク氏が先導役を務めるAIビジネスの未来」(後)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸

 こうした驚異的な技術開発の流れを分析し、「Google」のエンジニアリング部門の責任者で、世界的に著名な未来学者レイ・カッツウェル氏の未来予測が関係者の間で評判を呼んでいる。というのも、自ら「永遠の命を目指す」と公言しているからだ。と同時に、「亡くなった父親をアバターとして蘇生させる」という前代未聞の計画を推進中とのこと。

 多くの専門家が予測するように、AIは2029年に大転換期を迎えるだろう。その年までにコンピューターは人間の知性を超えることが確実視されているからだ。2045年はシンギュラリティの年。そこに向かってプロセスはすでに始まっている。「ソフトバンク」の孫正義氏もカッツウェル博士と同様な考えである。

 ただ、孫氏は「シンギュラリティは2047年」と予測している。その差は2年に過ぎない。いずれにせよ、人間の脳はクラウドと接続され、人間の能力は飛躍的に進化するはずだ。BMIによって、ロボットとのテレパシーも人間同士のコミュニケーションもテレパシーで可能となる。マスク氏が進めるミューラリンクもそのプロセスの一里塚に過ぎない。

 要は、人間の進化の次の段階はサイボーグ化ということである。2030年代までには体内にマシンが装着され、思考を司る脳の一部である新たな外皮をクラウドと接続することが可能になる。新たな外皮のお蔭で、人はより楽しい存在になり、音楽やアートに長けるようになり、よりセクシーな存在になる。現在もパーキンソン病の患者の脳内にはコンピューターが埋め込まれ、治療に活用されている。脳内に埋め込んだチップで記憶力は向上する一方である。

 さらに驚くべきは、人体から発電する装置の開発であろう。コロラド大学のシアオ教授は人体から熱を吸収し、安定的な電力源にするリング状のデバイスを開発したと公表。アップルウォッチやフィビットのようなウェアラブルの動力源になり得る。これがあれば、バッテリーは不要となる。

 従来のバッテリーはレアアースなど腐食性物質を材料としており、人体には有害といわれてきた。そうした問題を根本から解決するため、人の体と皮膚から電気を得るというマジック技術が実用化されつつあるわけだ。このTEGと呼ばれる発電機はペースメーカーや心筋梗塞予防装置などの動力源となり、しかもエネルギー効率は5~8%も向上するというから心強い限りだ。

 将来、人体は自ら発する電源ですべてを稼働させうるようになる。太陽光も吸収、活用が可能という。現在、人体は食事から得るエネルギーの25%しか機能的にアウトプットしていない。今後は体内に内蔵した電動デバイスの発電にも活用されることになるだろう。この発電デバイスは故障した場合にも自ら修理する自己修繕能力もあり、極めて信頼性が高い。

 ウェアラブルのマイクログリッドは人体のエネルギーで小型電子装置の発電が可能に。2021年3月、カリフォルニア大学サンディエゴ校の学生が開発したのは汗や運動によって発電する機械である。酵素を活性化させ、人の汗に含まれる乳酸塩と酸素分子の電子を交換することで発電する仕掛け。同校のウェアラブル・センサー研究所のワン教授が主導したものであるが、身に着ける肌着やTシャツに張り付ける商品化が進んでいる。

 現在のウェアラブル装置の最大の課題は発電用バッテリーの大きさ、重さ、充電時間の長さという“三重苦”であった。こうした課題が解決すれば、ウェアラブルの国際市場規模は2025年までに700億ドルに拡大するとの見通しである。現在はアスリートが主な利用者だが、将来は室内でデスクワーク中にも発電できるように進化させるという。シンガポールの南洋工科大学の新素材科学エンジニアリング学部のチェン教授は切断、折り曲げ、引き延ばし可能なウェアラブル電子装置を開発中という。

 実はスマートウォッチの市場だけを見ても、2018年に130億ドルだったものが、2021年には32%増加し180億ドルへ膨れ上がっている。スマート機能付きの歯磨きブラシ、ヘアブラシも人の行動パターンや利用状況のデータを蓄積する。IoT市場は2019年に2,500億ドルを記録したが、2027年までに1兆4,630億ドルへ急拡大が確実視されている。消費者のデジタル・ヘルス・ケアにも、また危険度の高い職場での安全対策にも有効と期待されている。

 もともとは軍事的な目的で研究開発が始まったAIを駆使したスマート技術であるが、医療や健康管理など、我々の日常生活のあらゆる局面に応用されつつある。気が付けば、すべての行動がAIの判断に委ねられるような時代が始まっているのかもしれない。皆さん、そんな世界に生きる準備はできていますか?

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(中)

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