2024年11月22日( 金 )

コロナ自粛に潜む健康被害~政府の対応に大きな懸念(前)

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和田秀樹こころと体のクリニック
院長 和田 秀樹 氏

 「コロナ自粛」が叫ばれて久しい。政府は外出自粛やリモートワークを推進しているが、足腰の弱体化や脳機能の低下、「コロナうつ」などのリスクが潜んでいる。「コロナ自粛」にともなう健康被害を防ぐために、どう対処すべきか。「和田秀樹こころと体のクリニック」の和田秀樹院長に話を聞いた。

自粛は命を大切にしているか?

 「コロナ禍で政府の指示に従うことに意識が向いてしまい、自粛は本当に命を大切にしているのかという視点が見落とされていることが、とても気がかりです」と和田秀樹氏は懸念する。「コロナ禍から国民の命を守るため」という理由で行われる外出自粛などが、人々の身体とメンタルの健康に深刻な悪影響をおよぼしているという。

和田 秀樹 院長
和田 秀樹 院長

 「今の時期、経営者は社員の健康やメンタルを率先して考えるべきです。とくに50代以上の人が外出自粛やリモートワークによって体を動かさなくなると、運動不足となり体力がなくなってしまいます。また、会食や人との接触の自粛で会話する機会が減ると、脳の機能が低下してしまいます。これらを防ぐとともに、コロナ禍による感染不安や経済的不安が蔓延するなかでの心のケアが必要です」(和田氏)。政府は国民に自粛を求める一方で、健康を守るための対策を表立って行っていないのが現状だ。

 対策として、たとえば毎日10分ほど体操するだけでも大きく違ってくる。運動不足に効果があるからだ。リモートワークを行っている場合も、家に閉じこもらずに散歩したり、人と話したりした方がいいとアドバイスする。

 外出自粛にともない増えている「コロナうつ」を防ぐためにも、外に出て日光にあたったり、歩いたりすることが大切となる。これは漠然とした不安が原因となり、気分が落ち込んだり、やる気が出なくなったりする心の病気で、自殺の原因にもなる。「コロナうつ」は、ストレスに対して効果がある脳内物質「セロトニン」の不足により、発症のリスクが高まる。外出自粛で体を動かさなくなるとお腹が減らず、肉類などのタンパク質の摂取量が不足したり、日に当たる時間が減少したりすることでセロトニンが不足がちとなる。食欲が出ない、ぐっすり眠れないなど、うつ病の初期症状が出た場合は注意が必要だ。

 和田氏は「コロナ禍のなかで、人とコミュニケーションを取る行為が悪いことのように言われているのも大きな問題です。心をケアするためには、通常ならば飲み会を開くことも1つの方法ですが、現状ではZoomなどを活用したオンラインで『愚痴こぼし会』を開くなど、人とのコミュニケーションを絶やさないようにすることが必要です」と話す。

メンタルケアが必須

 「コロナうつ」は、経済的な不安も原因になりやすい。コロナ自粛で経済を犠牲にしているため、解雇などの不安が高まっており、雇用調整助成金などを活用して社員の不安を取り除けるように努めることが大切だという。安定した生活を確保できるという安心感がなくなると、うつ病になりやすいためだ。

 日本では生活保護などの福祉制度がうまく機能しておらず、セーフティネットがないことがたびたび指摘されている。一方、海外を見渡すと、たとえば、福祉国家のフィンランドでは生活保護や失業などの制度が整っているため、「解雇されても生活保護で食べていける」という安心感があるといわれている。国の社会福祉が整っていると、NOKIA(ノキア)がゴム製品の生産を経て異業種の携帯電話産業に進出するなど、企業としても前向きに挑戦しやすくなる。

 「コロナうつ」が増える一方で、院内感染を怖がって医療機関を受診しない人もいる。来院時には、食欲がなくなりやせ細るなど重症化しているケースがかなり多いという。和田氏は「『コロナうつ』などのメンタルの病気をすべて薬で治せるというのは極端な考え方で、最も効果的な方法とは言い切れません。うつ病を治すには、1人で抱え込まずに素直に人に頼るなど心の持ち方を変えることや、散歩して日に当たったり運動したりするという生活の工夫も有効です。コロナ禍のなかでは、感染症分野の専門家ばかりが表に出ていますが、分野ごとに細分化しすぎずに、人の心の問題を含めて全体を見ることが必要です」と強調する。

 また、緊急事態宣言が発令された地域では、行政が飲食店での酒類の提供を禁止しているが、先進諸国と違って酒類の販売規制が緩い日本では24時間、小売店などで酒類を購入できる。そうした環境の下、社会不安の蔓延にともなって自宅飲みが増え、飲酒量の増加によってアルコール依存症が広がることも懸念されている。和田氏は「アルコール依存症を防ぐためにもオンライン飲み会を行うなど、人と話しながらお酒を飲める場をつくることが大切です」と提案。さらに、メンタルケアには長電話で話すことも有効であるとアドバイスしている。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
和田 秀樹
(わだ・ひでき)
和田秀樹こころと体のクリニック院長。精神科医・臨床心理士。1960年生まれ、大阪府出身。東京大学医学部卒、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、国際医療福祉大学心理学科教授。一橋大学経済学部非常勤講師、東京医科歯科大学非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問。主な著書に『こんなに怖いコロナウイルス 心の病』(かや書房ワイド新書)、『「コロナうつ」かな? そのブルーを鬱にしないで』(WAC BUNKO)、インタビュー書に『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)。


和田秀樹こころと体のクリニック
院 長 : 和田 秀樹
所在地 : 東京都文京区本郷3-21-12 RTビルB1F 
TEL : 03-3814-4530 
電話受付時間: 月曜日~金曜日 午後1時~午後7時(要予約) 
診察時間  : 毎週月曜日 午前11時~午後7時

(後)

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