2024年11月20日( 水 )

【論点】宙に浮いた「アストラ製」コロナワクチンの行方は

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 九州唯一のワクチンメーカー「KMバイオロジクス」(熊本市)が英製薬大手アストラゼネカから受託生産中の新型コロナワクチンが、公費接種の出番がなくなって宙に浮いている。アストラ社は「数週間以内にワクチンの出荷を開始する」とコメント、今後の使われ方に注目が集まる。

 アストラ製ワクチンは5月21日、米モデルナ製とともに厚労省から承認された。モデルナワクチンは東京や大阪の大規模接種会場で華々しくデビュー。すでに医療従事者や65歳以上の高齢者に使われていた米ファイザー製と感染封じ込めの“双璧”になっている。

 しかしアストラ製ワクチンは違った。英国などで接種後にごく稀だが、血液が固まって血管が詰まる血栓症が報告され、厚労省は公費接種には使わないと判断した。製造販売は承認したものの、安全性に配慮して使われない歪な事態になっている。

ワクチン 注射器 イメージ 政府は昨年12月、アストラ社と6,000万人分のワクチン供給契約を締結。このうち1,500万人分のワクチン原液は海外から輸入し、4,500万人分はバイオ医薬品メーカー「JCRファーマ」(兵庫県芦屋市)と今年1月、生産委託契約を結んだ。さらにKMバイオロジクスと第一三共(東京都中央区)が、ワクチン原液の成分調整やバイアル充填、包装といった製剤化を担い、海外の輸入ワクチンに頼らない、国内で完結するワクチン供給体制が整った。KMバイオロジクスは、新型インフルエンザワクチン工場だった合志事業所(熊本県合志市)の生産ラインをコロナワクチン用に改造する工事を経て3月19日に製剤化に着手した。原液は当初海外からだったが、3月末には生産工場が完成したJCRファーマの国産分を追加。厚労省の承認後の速やかな出荷を念頭に準備を急いだ。

 現在、同社は「承認後もそのまま製剤化を進めている」(広報課)と話す以外は一切ノーコメント。ただアストラ社は承認日の21日、ステファン・ヴォックスストラム社長の「日本でワクチンの生産はすでに始まっている。数週間以内に出荷を開始する予定」とするコメントを発表。そのうえで「ワクチンは80カ国以上で条件付き販売承認や緊急使用が認められ、WHO(世界保健機構)の緊急使用リストに加えられた。コバックス(ワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際枠組み)を通じて最大142カ国へのアクセスが促進される」とした。

 日本ではファイザー、モデルナの2社分ですでに16歳以上の全国民のワクチンを確保した。その点を踏まえ、アストラ社は、政府がコバックスに拠出するのを想定しているかのようにもみえる。アストラ製ワクチンは、通常の冷蔵(2℃~8℃)で最低半年間保管、輸送、管理が可能とされ、使い勝手に優れている。そして何より、現時点では自国内で生産から製剤化、販売までを終えるただ1つのコロナワクチンだ。

 6,000万人分がそのままコバックスに拠出されるのか、あるいは一部を国内に“備蓄”し、年齢制限を設けて使われるのか。アストラ製と同様の仕組みでつくる米ジョンソンアンドジョンソン製のコロナワクチンが5月24日、厚労省に承認申請された。国内で使うのが難しいものを、無条件で承認するのか。こちらの審査にも強い関心がもたれている。

【南里 秀之】

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