2024年11月23日( 土 )

ミャンマー軍事クーデター、日本政府が沈黙する陰に日本企業と軍の深いつながり(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
(一財)カンボジア地雷撤去キャンペーン理事長
CMCオフィス(株)代表取締役 大谷 賢二 氏

 2月1日のミャンマー国軍によるクーデターは、昨年のミャンマー連邦議会の総選挙で、アウンサン・スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)が改選議席の8割以上を得たことに恐れをなした国軍が、憲法で保障された権限を発動したものだ。
 国連や欧米各国は、ミャンマー軍に対して、市民の殺りく停止、スーチー女史などの逮捕者の即時釈放、民主化の回復を求めて厳しい対応をしているが、日本は毅然とした態度をみせていない。そのような対応しかできない背景には、日本企業とミャンマー軍との深いつながりがあった。

(2) 軍系企業MEHLと事業提携してきたキリンホールディングス

 2019年9月に発表された「ミャンマーに関する国連事実調査団」によるミャンマー軍の経済的利益に関する報告書(以下、「国連19年報告書)は、少数民族の弾圧を長きにわたり行ってきたミャンマー国軍と深く関係していると考えられる軍系企業であるMEHLとキリンホールディングス(株)が事業提携を継続していることを問題視した。クーデターを受けて、キリンは今年2月に提携を解消することを発表した。

 ミャンマー国軍は、17年以降にはラカイン州のロヒンギャに対して、殺害、性暴力、強制退去などの人道に対する罪を犯してきた。このような残虐な行為に対して、国連が設置した事実調査団は、軍による残虐行為が戦争犯罪および人道に対する罪のレベルに達したと18年に報告。

キリンはミャンマー軍がロヒンギャに対する民族浄化を行っている最中にも軍に献金していた。(大谷氏提供)

 キリンは、その国軍と関係のあるMEHLとの提携のもと、ミャンマー・ブルワリー(MBL)とマンダレー・ブルワリー(MDL)の過半数の株を保有してきた。キリンは、15年にはMEHLとの合弁事業提携により、買収したMBLの株55%のうち4%をMEHLに譲渡し、17年に別の事業にてMDLの株式の51%を買収した。

「ミャンマービール」はおいしいと評判だがその利益はミャンマー軍に流れている。(大谷氏提供)

 アムネスティ・インターナショナルによれば、MBLは17年9月から10月にかけて、ミャンマー国軍およびラカイン州政府に少なくとも3万ドルを寄付していることが報告されている。ロヒンギャに対する軍の民族浄化キャンペーンが最高潮に達していたタイミングだった。国連19年報告書は、ミャンマーで活動を行う海外企業の事業は、「国際人権法および国際人道法違反に寄与あるいは関与するリスク」をともなうものであり、「少なくともこうした外国企業がミャンマー国軍の財政能力を支援している」と結論づけた。

 キリンは21年1月7日、ウェブサイトにて、MBLおよびMDLからの資金の使途を明らかにするための独立調査について、確たる判断に必要な情報を外部アドバイザーとして委託したデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー(同)が十分に入手できなかったことから、確定的な結論に至らなかったと報告。そして同年2月1日に発生したクーデターを受けて、以下の声明をウェブサイトで公表し、クーデターを受けて、提携の解消を検討するとしている。

 キリンホールディングス(磯崎功典社長)は次のようにコメントし、クーデターを受けて、提携の解消を検討すると公表した。

 「ミャンマーにおいて国軍が武力で国家権力を掌握した先般の行動について大変遺憾に思っています。今回の事態は、当社のビジネス規範や人権方針に根底から反するものです。当社は、2015年当時、ミャンマーの政治体制が民主的な選挙により軍政から民政に変わり、世界に開かれた国家として今後の発展が期待されるなか、当社の事業を通じてミャンマーの人々や経済に貢献できると考え、当地への投資を決定しました。

 その投資先であるミャンマー・ブルワリー社およびマンダレー・ブルワリー社は、福利厚生基金の運用会社として国軍と取引関係のあるMyanma Economic Holdings Public Company Limited(MEHPCL)との合弁事業です。

 両ビール会社を通じてミャンマーの経済や社会に貢献することは今後も変わらず当社が目指すところですが、現在の状況に鑑みるに、国軍と取引関係のあるMEHPCLとの合弁事業の提携自体は解消せざるを得ません。当社は、そのための対応を早急に開始します。本件に関する進展については、できる限り速やかにお知らせします」

    日本政府の協力も得ながら、一刻も早くこれを実現すべきだろう。

(3) 真珠生産協定を軍政府と締結しているTASAKI

 ミャンマー真珠公社(MPE)と事業提携をしている(株)TASAKI(以下、田崎)は同国最大の真珠生産企業となっており、この提携は延長されることが想定されている。生産場の新たな建設により、現地でイカ漁を営むモーケン族の生活を圧迫することにもつながっていることが懸念されている。

 田崎とミャンマー真珠公社の合弁事業はタニンダーリ地方域にて最大の真珠生産事業であり、年間に22万個の真珠を生産している。この水域のイカ漁に頼っているモーケン族は、以前から同公社によって粗雑に扱われている。水揚げしたイカを押収されたり、なかには逮捕または数日間拘留されたりしたモーケン族もいると報告されている。

 田崎が01年に真珠生産に関する協定を軍政府と締結して、800万ドル以上を投資した協定は20年に終了したが、18年に5年間の契約延長を申し出ている。この提案はランガン島を含むシスターズアイランドに新たに3つの1.7万エーカー(約6,800m2)の生産場を建設する計画を含む。

 この計画によって、モーケン族が漁へのアクセスを失う可能性があり、生活をさらに苦しめる可能性がある。田崎の契約延長に関して、ランガン島の人々はタニンダーリ地方政府に、田崎がシスターズアイランドに触れないようにするよう請願を行った。

(つづく)

(3)
(5)

関連記事