2024年12月22日( 日 )

【ラスト50kmの攻防(25)】国交省がJR財源拡大の検討開始

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JR新鳥栖駅
JR新鳥栖駅

 与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT、細田博之座長)が6月14日、衆院第二議員会館で開かれ、西九州ルート小委員会(山本幸三委員長)が未着工の「新鳥栖―武雄温泉」間のフル規格整備を前提に並行在来線の扱いなど4項目の検討状況を報告した。

 佐賀県の建設費負担が大きいため、西九州小委はJR財源(既存新幹線を経営する関係JRへの国の貸付料)の拡大や佐賀県の負担金に対する地方交付税の増額配分を国に求めた。国交省幹線鉄道課は「与党の指摘としてJR財源拡大の検討を始めたい」(幹線鉄道課)としている。関係JR各社に対する国の既存新幹線の貸付料徴収期間は現行30年間だが、小委は期間延長などを求めた。

 並行在来線の扱いでは、「新鳥栖―武雄温泉間の在来線は通勤、通学の利用者が多く、鉄道として維持するのが適当」と指摘。新幹線開業時にJR九州の経営分離を前提とせず、JR九州の運行維持が不可欠とした。

 ルートは「旅客流動や利用者の利便性、事業費などを総合的に勘案し佐賀駅を通るルートが適当」としながらも、「佐賀県からフル規格を前提とした別ルートの提案があれば、別途検討する」と余地を残した。

 国交省と佐賀県が5月31日に開いた「幅広い協議」で、佐賀県は佐賀駅経由以外に、長崎自動車道と並走する「北回り」と佐賀空港経由の「南回り」の3ルートのそれぞれの概算工事費や費用対効果などの試算を国交省に初めて要望した。

 このうち「南回り」は、九州新幹線・筑後船小屋(筑後市)が分岐駅になり、福岡県を通って佐賀空港近くに設置する新佐賀駅(仮称)経由で西九州新幹線に接続すると想定される。これだと、新鳥栖―武雄温泉間は全線が佐賀県内という協議の前提が崩れる。また、佐賀空港西側隣接地には陸上自衛隊佐賀駐屯地(仮称)を整備し大型輸送機「オスプレイ」を配備する計画がある。山口祥義知事も同意済みで、自衛隊との共用空港化後に民間利用が制約される可能性もある。

 西九州小委の報告に対し、山口知事は「それはそれとして与党で検討されることだろう。佐賀県は(国交省との)『幅広い協議』の場でさまざまな観点から骨太の議論をしたい」と述べた。

 この日の与党PTには、新鳥栖―武雄温泉間とともに未着工の、北陸新幹線「敦賀―新大阪」間の方針を協議する敦賀・新大阪間整備委員会(高木毅委員長)も検討状況を報告した。建設主体の鉄道・運輸機構が実施中の環境アセスメント(京都府南丹市の京都丹波高原国定公園内)が住民の反対で現地説明会を開けない状態で、目標の2023年度当初着工が厳しい見通しという。

【南里 秀之】

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