バイデン大統領を手玉に取り世界制覇を狙うイーロン・マスクの戦略(中)
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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸
電気自動車テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は、バイデン大統領の誕生に向けて、水面下で支援を惜しまなかった甲斐があり、電気自動車の普及に欠かせない予算をバイデン新政権から勝ち取ることに成功した。マスク氏は独自の発想からアメリカの政治を動かして、新たなビジネスに結び付けようと考えをめぐらせている。
そんな資本主義の権化のようなイーロン・マスク氏であるが、2018年6月16日、自らのTwitterで「自分は社会主義者だ。真の社会主義とは万人のために尽くすこと」と宣言し、続けて「マルクスは資本主義者だった。そんな本を書いていただろう」と勝手気ままな解釈をぶちまけた。
加えて「だいたい自分で社会主義者と言っているような連中は性格が暗くて、ユーモアのセンスがない。そのくせ、授業料の高い大学に通っていたものだ。運命なんて皮肉なものさ。自分は国の税金を皆が喜ぶような事業に活かすことのできる真の社会主義者だ」と自己PRに余念がない。しかも、「将来、火星に移住し、コロニーを建設する予定だが、そこでは真に平等な社会を目指す」とまで発言。
バイデン氏の支持を得て、順風満帆のように見えるマスク氏であるが、ライバルたちの動きも気になるところだ。たとえば、「フェイスブック」のマーク・ザッカーバーグ社長はワクチン開発に投資するのみならず、世界初のテレパシー・ネットワーク構築を計画し、その実用化に向けて余念がない。具体的には脳とコンピューターを結びつける研究を継続している。
すでに毎秒100ワードを考えただけでタイプできる縁なし帽を開発した。というのも、世界では30万人以上が内耳インプラントによって音を電気信号に変換することで聞こえる力を獲得しており、医療面でもさらなる応用が期待できるためだ。
もちろん、マスク氏の「ニューラリンク」に負けないためである。BMI(脳とマシーンの合体)技術で人をオーガニック・コンピュータへ転換させるビジネスの土台が生まれつつあるわけだ。
極めつきはマサチューセッツ工科大学(MIT)の開発するコンピューターとのインターフェース「アルターエゴ」であろう。これは話さなくともコンピューターを操作できるデバイスである。まさにウェアラブルの新革命といえそうだ。顎や顔の動きで神経細胞のシグナルを受信し、コンピューターを動かすという画期的なもので、マシーン・ラーニングへの応用も想定されている。
こうした新たな研究開発の先導役をはたしているのが「Google」のエンジニアリング部門の責任者で、著名な未来学者レイ・カッツワイル博士であろう。彼の発想は人類の歴史を大きく変える可能性を秘めている。なぜなら、自らが「永遠の命を目指す」と宣言しているのみならず、亡くなった父親をアバターとして蘇生させる計画をも推進しているからだ。
その意味では、AIの世界は29年に大転換期を迎えることになるだろう。というのは、カッツワイル博士の予測では「その年までにコンピューターは人間の知性を超える」ためだ。いわゆる「2045年シンギュラリティ論」である。いうまでもなく、世界はその方向を目指し、猛スピードで進み始めている。このプロセスは止まりそうにない。ましてや人と人との接触を減らすコロナ禍はそうした動きを後押ししていると言っても過言ではない。
21年3月期に、日本史上最高の4.9兆円という収益を叩き出した「ソフトバンク」の孫正義会長も同様の考えのようだ。孫氏は「シンギュラリティは2047年」と予測している。その結果、「人間の脳はクラウドと接続することになり、人間の能力は飛躍的に進化を遂げる」と断言。BMIによって、ロボットとの対話も人間同士のコミュニケーションもテレパシーで可能となる。「フェイスブック」や「ニューラリンク」の新規ビジネスも、そうした流れを受けてのことだ。
実は、「人間の進化の次の段階はサイボーグ化」と言われて久しい。30年代までには体内にマシーンが当たり前のように装着されるというわけだ。なぜなら、思考を司る脳の一部である新たな外皮をクラウドと接続する実験が進んでいるためだ。新たな外皮が誕生すれば、人はより楽しい存在になり、音楽やアートに長けるようになるに違いない。
現在もパーキンソン病の患者は脳内にコンピューターを埋め込むことで、治療に活路が見出されている。30年代には脳内に埋め込んだチップで記憶力も判断力も格段に向上するに違いない。
こうしたウェアラブルの国際市場規模は25年までに700億ドルに拡大すると予測されている。スマートウォッチの市場に限っても、18年に130億ドルだったものが、21年には32%増加し180億ドルへ拡大することが確実である。スマート歯磨き器、ヘアーブラシも人の行動パターンや利用状況のデータを蓄積することで、利用する人間の健康管理にも役立つようになる。そうなれば、IoT市場は19年に2,500億ドルだったが、27年までに1兆4,630億ドルへ飛躍的に拡大するであろう。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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