2024年11月24日( 日 )

バイデン大統領を手玉に取り世界制覇を狙うイーロン・マスクの戦略(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
国際未来科学研究所代表 浜田 和幸

 電気自動車テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏は、バイデン大統領の誕生に向けて、水面下で支援を惜しまなかった甲斐があり、電気自動車の普及に欠かせない予算をバイデン新政権から勝ち取ることに成功した。マスク氏は独自の発想からアメリカの政治を動かして、新たなビジネスに結び付けようと考えをめぐらせている。

 要は、人間の体も頭脳もウェアラブルやIoTのお陰で、サイボーグ化することは既定路線になりつつあるわけだ。問題は、そうした恩恵を我々がどこまで享受できるのか、ということである。確かに、永遠の命を手にすることは夢のある話だろうが、我々の生身の人間にとって、そうした新たなデバイスを受け入れる心と肉体の準備が2045年に間に合うのだろうか。

 いずれにせよ、AIの可能性と脅威については、マスク氏の考えはロシアのプーチン大統領とよく似ている。マスク氏曰く「AIの脅威は北朝鮮の核やミサイルより深刻だ。世界がAI開発競争に血眼になれば、第3次世界大戦の引き金を引くことになる。世界には独裁者が誕生する恐れが常にある。しかし、独裁者といえども、必ず死ぬだろう。ところが、AIは死なない。彼らは無限の命をもち、人類を自由に操ろうとするに違いない」。

AI イメージ マスク氏にとってはライバルとなるGoogleであるが、同社の「ディープマインド」は世界初のAGI(人工総体知能)への見取り図を明らかにしている。マスク氏に言わせれば、「彼らはすべてのゲームにおいて人類を1分以内に打ち負かす能力をすでに手に入れているわけで、インターネットにとって最大の脅威に他ならない。もし、AIが意思と目標をもてば、行く手に存在する人間は邪魔者と判断され、その瞬間、人間は排除されるだろう」。

 そうしたAIのもたらす人類への挑戦を受けて立つためにも、マスク氏はニューラリンクによる人間のサイボーグ化を目指しているわけだ。まだ動物実験の段階であるが、間もなく人への応用実験が始まる。すでにアメリカ政府の食品医薬品局からは「革命的なデバイス」とのお墨付きを得ている。

 ニューラリンクの技術を使えば、人は埋め込まれたチップから直接、音楽を聴くことができる。ホルモンの分泌も思いのままだ。そうすれば、不安心理も解消できるし、理性や判断力も飛躍的に高めることもできる。うつ病など過去のものになる。また、さまざまな依存症にもおさらばできるはずだ。

 こうした研究や実験の成果を踏まえ、マスク氏は「オープンAI」を立ち上げた。そこではAIの技術を活用し、誰もが本物と信じて疑わないようなフェイクニュースを創作できるという。新聞記事、学術論文、文学的な詩でも小説でも、何でもOKとのこと。とはいえ、あまりにも社会的な影響が大きいと思われるため、技術的な詳細は秘密にされている。

 「公開することは危険過ぎる」との判断であろう。「GPT-2」と呼ばれるシステムが主役であり、思いついた単語や短い文章を入力すれば、あとはAIがインターネットから必要なデータを選び出し、長短自在に原稿を仕上げてくれる。状況に応じて、もっともらしい架空の出典元からデータや引用資料をそろえてくれるという優れモノだ。

 現時点でも、インターネットの世界はフェイクニュースで溢れているが、こうしたスーパーインテリジェントなAIが活動するようになれば、新薬の効果から始まりクリーンエネルギーの実用化まで、ありとあらゆる分野で都合の良い情報やデータがまかり通ることになるだろう。

 マスク氏にとっては好都合かもしれないが、人間にとっては住みにくい世界としか言いようがない。とはいえ、マスク氏の声が聞こえてきそうだ。曰く「フェイクニュースに騙されないようにするには、ニューラリンクのチップがお勧めですよ」。人間が自然な人間であり続けることがますます難しい時代が迫っている。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

(中)

関連記事