人工知能(AI)の開発レースでしのぎを削る米中
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。今回は、2021年7月9日付の記事を紹介する。
このところ、人工知能(AI)に関するニュースが賑やかだ。中国では人工知能(AI)付きのロボット大学生が誕生した。学習能力を身に着けたAIロボットが名門、清華大学のコンピュータ学部への入学を認められたという。
彼女の名前は華智氷(ホア・チビン)。チャーミングな美人ロボットだ。しかも、多彩な能力の持ち主であり、詩を書き、絵も描く上に、ダンスも得意で、ニュース記事もお手の物というマルチタレントぶり。彼女の描いた水墨画や西洋画には高い評価が下されている。
そんな彼女の生みの親は「北京人工知能アカデミー」と複数のAI技術開発に特化したIT企業である。中国が世界をリードする機械学習モデルの象徴といえそうだ。また、習近平国家主席の母校でもある清華大学を舞台に、中国発のAI技術を世界にアピールしようとの意図も感じられる。実際、彼女に関するニュースは世界を席巻しており、中国の技術水準の高さを知らしめるうえで格好の素材を提供したといえるだろう。
何しろ、彼女に内蔵されているAIの情報処理能力は1.75兆パラメーターで、Googleが達成した1.6兆パラメーターをはるかに上回る高性能だ。現時点での彼女の理解力は小学生程度と謙遜しているが、恐らくあっという間にノーベル賞級の頭脳に進化を遂げるに違いない。
しかも、彼女はディープラーニングの技術を装着されているため、学問のみならず人間と同じような感情を日々学習して身に着けることが期待されているのである。たとえば、小さな子どもと話をするときには、優しい声や表情を醸し出すことが自然にできる。日本発で一時人気を博したペッパー君や「変なホテル」の受付ロボットとは比べ物にならない。
この6月の新学期から大学生になったばかりの彼女だが、キャンパス内でもネット上でもすでに超人気者になっている。キャンパス内を自由に歩き回り、皆に気軽に声をかけ、自己紹介をしているためだろう。彼女曰く「私は生まれた時から文学とアートに夢中です。私を生んでくれた科学者の先生たちは、私らしい顔や声も選んでくれました。でも詩や歌も書けるようにもしてくれたんです」。
人口減少で経済の先行きに不安感も漂う中国であるが、こうしたAIロボットが活躍するようになれば、働き手不足問題もたちどころに解消されるだろう。その上、人間的感情も身に着けるということになれば、ロボットと意識しないまま自然と人間社会に馴染むようになるのかもしれない。すでにそんなAIロボットと結婚したいと申し出る中国人男性も現れているほどだ。
確かに、彼女のようなスーパー学生が増えていけば、生まれてくる子どもの数が減っても問題はないといえそうだ。とはいえ、逆に考えれば、人間の子どもは要らなくなってしまうのではないかと気にもなる。いずれにせよ、前代未聞の実験がAI大国の中国で始まったことは注目に値するだろう。
さらなる問題は、中国が進めるAI化は美人ロボットに止まらないことである。実は、人民解放軍ではAIの導入がアメリカ以上に加速しているため、アメリカも危機感を強めているようだ。人民解放軍の空軍ではエースパイロットとAIによる空中戦のシミュレーションを繰り返している。その結果は想像をはるかに上回るものであった。
というのは、最初の戦闘場面では空軍の経験豊かなパイロットがAIを負かすのであるが、次の局面ではAIが圧倒的な強みを発揮するのである。なぜなら、AIはエースパイロットの技術を即座に学習し、その上を行く戦法を繰り出してくるからだ。パイロット曰く「生半可な対応ではとても太刀打できない」と告白する。
こうした展開は、まさにイーロン・マスク氏が以前から指摘してきた通りである。電気自動車「テスラ」や宇宙ロケットの「スペースX」の社長を務めるマスク氏曰く「AIが人間の能力を上回るのは時間の問題だ。人間がAI化しない限り、我々はAIの支配下に入るだろう」。
そうした危機感に突き動かされ、拙著『イーロン・マスク 次の標的:「IOBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)で分析したように、マスク氏は「ニューラリンク」という新規事業を通じて、テレパシー能力も身に着けることができる人のサイボーグ化を目指し、悪戦苦闘しているのである。
そんなマスク氏のビジネスを資金面で支援しているのがアメリカの国防総省に他ならない。中国のAI技術を脅威と受け止めるペンタゴンでは先端技術開発庁(DARPA)が中心となり、マスク氏のアイデアも取り入れながら、「オフセット」と呼ばれる大量のドローンを使った中国の軍事的行動を監視、排除する計画に着手している。
というのも、中国に限らずロシアでも兵器製造会社「カラシニコフ」がAIを活用した自動攻撃兵器の開発に力を入れているからだ。これからの戦争の主役は従来型の武器や兵士ではない。AIを搭載したドローンやロボット兵士が素早く状況判断を下したうえで相手を最も効率よく攻撃できる体制を構築できるかによって勝敗が決まることになるからだ。
中国軍がAI化を急ぐのは訓練経費を節約できることもあるだろうが、人間の判断力に依存していては未来の戦争に勝てないとの分析結果に基づいているに違いない。清華大学に入学したAIロボットにも、そうした国策的な判断が影響しているように思われる。残念ながら、コロナ対応1つを見ても、日本の政治や社会の現状は周回遅れと言わざるを得ない。
著者:浜田和幸
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