【コロナで明暗企業(8)】海外旅行が蒸発したエイチ・アイ・エス~ハウステンボス売却計画の衝撃!(4)
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新型コロナウイルスの流行はいまだ収束せず、旅行することはまだ難しい。コロナ禍で需要が蒸発した旅行業界のなかで、エイチ・アイ・エス(HIS)は海外旅行が主体であるだけに打撃が大きい。ワクチン接種による国内旅行の回復に期待がかかるが、7月12日、東京都に4回目の緊急事態宣言が出された。ドン底から抜け出す光明は見えてこない。同社は生き残るために、なりふり構わず資産売却に動き出した。
澤田氏、「リクルート株詐欺」に遭ったことが最大の汚点
ハウステンボス(HTB)の経営に情熱を傾けてきた澤田秀雄氏がHTBから距離を置くようになったのは、ある事件がきっかけである。「リクルート株詐欺」に引っかかったことだ。
澤田氏が50億円の詐欺被害に遭った事件とは、どのようなものだったのか。2018年2月、HTBで金に裏付けられた電子通貨(テンボスコイン)を企画した際、金の調達を一手に引き受け、澤田氏に高く評価された金取引会社社長・石川雄太氏のもとに、こんな話がもちかけられたことがきっかけだった。
「リクルート創業者の江副浩正氏が、安定株主対策として預けた株が財務省に大量に保管されている。財務省とリクルートの承諾があれば、ワンロット50億円といった大口に限り、市価の1割引程度で供給される」。
瞬時に5億円の利益がもたらされる。およそ眉唾ものの話だが、よほどセールストークがうまかったのか、石川氏はワンロットの購入を決め、澤田氏に相談して資金提供を受けた。
当然のことながら、リクルート株が購入できるはずもなく、50億円は消えてしまった。石川氏は18年11月、58億3,000万円の支払い求めて、東京地裁に提訴。被告は数々の詐欺事件で有名な8人。石川氏は詐欺グループのカモにされた。その石川氏に50億円を提供したのが澤田氏だった。
東証上場へ向けて準備を進めているHTBとしては、詐欺被害の原資が澤田氏の要請でHTBから出ていることは、上場審査を不合格にされかねない不祥事だ。澤田氏は19年3月1日、HIS株120万株を売却、約53億円を得て損失を穴埋めした。この事件の責任を取り、澤田氏は同年5月、HTB社長を引責辞任した。
詐欺被害者から一転、訴えられる側に
この事件は尾を引いた。『週刊新潮』(21年4月1日号)は、「50億円騙し取られた『HIS』会長兼社長、裁判を起こされる立場に 横領で得られた金を受け取り」のタイトルで報じた。
こういった内容だ。架空のリクルート株取引をもちかけられたのは澤田氏の金庫番で、「アジアコインオークション」の経営者、石川雄太氏。石川氏は「エボネックス」という金を取引する会社を香港に設立。石川氏のビジネスパートナーは、計8億5,500万円をこのビジネスに出資。一方で、澤田氏も同時期にエボネックスを頻繁に訪問し、50億円で金1tを購入した。
記事の登場人物はこう語っている。
「詐欺に引っかかったことを境に、エボネックスの金の取引は目に見えて減少していきました。それまで計1億円の配当を受け取っていましたが、19年になると完全にストップ。石川さんを問い詰めると、“澤田さんも承知のうえで、金の取引に充てるはずの出資金を澤田さんヘの弁済に回した”と明かしたのです」。
石川氏は「詐欺グループから10億円は回収できたものの、澤田氏の取り立てが厳しく、17億円は出資金から都合をつけた」語っている。
この人物は「澤田さんはエボネックスから横領した資金で、詐欺被害の穴埋めをさせた」として、横領による不当利益として受け取った出資金を戻してもらおうと、裁判を起こすことにしたという。澤田氏は詐欺被害者から、「不当利益」の返還を求められるという裁判を起こされる立場に一転した。
園内に宿泊し、経営が傾いたHTBをV字回復させた再生請負人として、澤田氏はカリスマ経営者の名声を高めた。それが詐欺被害と、逆に裁判を起こされる屈辱を味わった。澤田氏にとって、今ではHTBは忌むべき鬼門である。
HTBが売却される日は来る。長崎県人はHISが手を引くことを覚悟したほうがよい。
(了)
【森村 和男】
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