2024年11月22日( 金 )

「五輪スポーツにとどまらないトランスジェンダー時代の幕開け」(後)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸

女子選手がトランスジェンダー選手に勝つのは至難の業

 フェアな競争を貶めるような、ドーピングや人工的な肉体改造は以前から問題視されていたが、万が一、女子選手が一斉にボイコットするような事態になれば、どう対応するのか。コロナ対策に限らず、ジェンダー問題でも難問に直面する東京五輪になりそうだ。

 来日中のバッハ会長は「競技への参加資格は国際ウエイトリフティング連盟のルールに従っている。間もなく開幕する競技のルールを現段階で変更するわけにはいかない」と述べる一方で、「問題点の指摘もあり、現在、ルールの在り方を再検討している。早晩、見直しがあるだろう」とも付け加えている。

 バッハ会長によれば、「IOCとすれば、関係する各方面の専門家から意見を聴取しており、遅かれ早かれ新たなガイドラインを作成することになるだろう。競技によっても違いがあり、すべてに当てはまる万能薬のような解決策を見出すのは容易ではない」とのこと。

 実は、アメリカの場合は各州によってトランスジェンダーの扱いがバラバラである。フロリダ州やモンタナ州では中学、高校レベルでのスポーツ大会ではトランスジェンダー選手は出場が禁止されている。基本はやはり不公平ということである。アメリカでは以前からこの種の問題は政治化しやすいため、州ごとに100を超える法律ができており、いかに平等な環境を整えるかが議論されてきた。しかし、統一見解が得られるまでには至っていない。

 というのも、テストステロンの値に関しても、生まれながらの女子と性転換で女子となった場合では後者のほうが25倍も大きいことが判明しているからだ。生まれてから12歳頃までは男女間の差はほとんどない。しかし、15歳前後から男女の差は大きくなる。同じように厳しい訓練を重ねたとしても、男子のテストステロンの値は女子を圧倒している。

 2010年にイスラエルの物理学者が陸上競技から水泳まで男女のエリート・アスリートを50年以上にわたり調査、研究した成果を発表。その結果、競技の種目に係わらず、女性選手の成績は男性と比べて10%は低いとのこと。たとえば、マラソンの世界記録で見れば、女子は男子より12分は遅いことが判明。

 要は、女子選手の最高記録を上回る男子選手がごまんといるというわけである。もちろん、その差は年々縮まっているようではあるが、同じになることはあり得ないらしい。ということは、トランスジェンダー選手は生まれながらの女子選手に勝つのは当たり前ということである。これでは公平なスポーツ競技とはいえないだろう。

 19年、世界陸上連盟ではトランスジェンダー選手が出場する場合には、競技の半年前にテストステロンの値を低下させることをルール化した。しかし、英国のスポーツ・メディスン・ジャーナルによる最新の研究では、「1年間のテストステロン値の減少期間があっても、トランスジェンダー選手の優位性は変わらない」ことが確認されている。

 いうまでもなく、選手の個人差も大きい。薬を服用し、テストステロンの値を下げたとしても、体力や筋力は影響を受けないというケースも多々報告されているからだ。それと同時に、もともとの女性でありながら、テストステロンの値が高いため、薬を服用して下げることを要請されているケースもあるというので、状況は複雑である。

 南アフリカの短距離走のセメンヤさんは800m走で2度の金メダルを獲得しているのだが、東京オリンピックへの出場に際してテストステロンの値を下げることを求められたという。彼女は生まれつきテストステロンの値が高いため、そのために薬を服用することを拒否しており、出場が危ぶまれている。テストステロンの値で男女を区別するという発想自体に問題があるようにも思える。いずれにしても、人権問題とも絡んでくるため、公平公正な競技環境を整えることは至難の業といえそうだ。

人体の「ロボット化」

 こうしたトランスジェンダー選手をめぐる論争が過熱する一方で、実は、人工的に筋力や運動能力を飛躍的に高める研究も進んでいる。具体的には、アメリカの国防総省では未来の「スーパー兵士」を誕生させる目的で人体をロボット化する研究に多額の資金を投入。敵国の兵士より1000倍もの戦闘能力を付けることが目標だ。

 人工的に筋肉を増強し、瞬発力や跳躍力も強化することにつなげるとのこと。そうした研究をリードするのがテキサス大学のレイ・ボーマン教授である。ナノテクの専門家であるが、最先端のナノテク技術を用いることで、人間の筋肉は想像をはるかに超えた力を発揮できるようになるといい、通常の筋肉が持ち上げることのできる重さの100倍以上を軽々と持ち上げることができるというから驚く。もし、このような人工筋肉を身に着けた選手が重量挙げに挑めば、たちまち記録を塗り替えることは間違いない。

 実は、4年ごとに開催されている世界軍人オリンピックともいうべき「ミリタリーワールドゲームズ」においても、アメリカの軍人アスリートはこれまで毎回、メダルを独占するほどの成績を重ねてきていた。もちろん、ロシアや中国の軍人たちも負けてはならずと同様のサイボーグ兵士を投入し、覇を競い合ってきた。

 余談だが、19年10月に、このミリタリーワールドゲームズは中国の武漢で開催された。ところが、毎回、メダル争いで圧倒的な強みを誇っていたアメリカ選手団が、金メダルを1つも獲れなかったのである。実に不思議な大会であった。

 問題は、その直後から例の新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたことである。感染源と疑われた武漢市内の海鮮市場には各国の選手団も珍味を求めて出かけていたと言われている。しかし、過去の大会でメダル獲得レースにおいて他国を寄せ付けない強さを誇っていたアメリカの選手団がまったく振るわなかったのはなぜなのか。当時も疑問の声が聞かれたものである。

 その後、武漢でCOVID-19が発生し、中国国内に止まらず、世界に飛び火したわけだが、中国やアメリカの専門家の間では、「ミリタリーワールドゲームズに参加したアメリカ選手は運動能力に長けておらず、もっぱら競技会場の周辺にアメリカから持ち込んだウイルスをばらまくのが与えられた使命ではなかったのか」との疑惑が出てきた。

 真相はいまだ闇のなかである。バイデン政権はWHOの調査が不完全なものとして、武漢のウイルス発生源の再調査をアメリカの軍や諜報機関に命じた。それに対して、中国政府はアメリカ軍による関与をほのめかすように、「アメリカのメリーランド州にある陸軍の細菌研究所を調べるべきだ」と反論している。「売り言葉に買い言葉」といった様相だ。

 いずれにせよ、ミリタリーワールドゲームズは国際理解と交流の場であるとともに、国威発揚の場でもあり、メダル獲得競争という側面は否めないだろう。東京でもアメリカと中国が激突することは間違いない。そのための人体改造はある意味では国家的事業となっている。それと比較すれば、トランスジェンダー問題は氷山の一角に過ぎない。言い換えれば、オリンピックなどのスポーツイベントが「軍事技術に支えられた肉体改造の成果を争う場」へと変貌していく可能性があるわけだ。日本選手の活躍を期待するが、人造アスリートとの勝負は容易ではないだろう。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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