【業界を読む】斜陽産業だが改革進まず、新聞は恒常的な赤字事業へ(中)
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マスメディアの代表格である新聞の凋落が止まらない。新聞各社は本業のメディア事業で利益を出せず、不動産事業に頼らざるを得ない状況にある。新聞各社の最新の2021年3月期決算(日経新聞は20年12月期)を基に、新聞の現状と今後の可能性について検証する。
新聞事業が赤字転落の読売
読売新聞はグループの連結決算をしていないので他社との比較が難しい。参考になるのは読売基幹6社の合算した収益だ。基幹6社とは、読売新聞グループ本社と傘下の読売新聞東京本社、大阪本社、西部本社、読売巨人軍、中央公論新社のことである。6社合計の21年3月期の売上高は3,067億円、前期比で434億円の減収となった。判明している17年3月期の基幹6社の売上高は3,832億円であり、4期で800億円弱、率にして20%減少したことになる。
利益面は営業損益段階で95億円の赤字、経常損益段階で51億円の赤字、税金などの調整後の当期損益が41億円の赤字となった。赤字の最大要因は、新型コロナウイルスの感染拡大で試合数の削減や無観客試合などの影響を受けた読売巨人軍である。新聞4社の売上高合計は3,008億円で経常損益合計は4億円の黒字だが最終損益では3億円の赤字となった。グループ本社が15億円の黒字であるのに対して、東京本社が8億円の赤字、大阪本社が5億円の赤字、西部本社が5億円の赤字となった。読売グループの新聞事業もついに赤字転落を余儀なくされたといえるだろう。
朝刊発行部数は21年3月が715万部と新聞社のなかで断トツだ。だが、前年同期比で57万部減と減少数も大きい。セグメント別の売上構成などはわからないが、新聞発行での採算割れを読売巨人軍などでカバーする構図だと推察される。そのためコロナで巨人軍が低迷すればダメージは大きい。他社同様に新聞事業は下落基調にある。
DXと専門性で優位な日経
日経新聞の20年12月期の決算は連結で3,308億円の売上高となり、前期比で260億円余りの減収となった。営業利益は84億円で前期比40%の減少、経常利益は前期並みを確保したが、最終利益は14億円弱と同60%程度の減少となった。
21年3月の朝刊発行部数は188万部となり、前年比で22万部減。他社と同様に発行部数の減少に見舞われているが、大きく異なるのは電子版の有料会員数が伸びていることだ。21年1月段階で有料電子版の購読者数は76万人を超え、日経産業新聞や日経MJなどのデジタル購読者数まで含めれば81万人を超える。
19年12月期の決算ですでに朝日新聞を逆転していたが、翌決算で約600億円の減収となった朝日新聞に対して、260億円余りの減収にとどまったことで、さらにその差は拡大した。朝日新聞はメディア事業の赤字を不動産事業などでカバーするかたちだが、日経新聞はほとんどの売上がメディア・情報事業だ。そうしたことを踏まえれば、新聞を主体とするメディア関連事業の収益力の差はもっと大きいだろう。
右肩下がりが常態化する新聞業界にあって、同社の業績が下げ止まりを見せているのは、他社に先駆けて取り組んだDXと経済に特化した専門性によるものだろう。朝日や読売をはじめとする全国一般紙は、他社との差別化が図りづらい。保守かリベラルかといった思想的特性は多少あるが、社会が複雑化しネット上に情報が氾濫する時代では、そうした特性はあまり意味をなさなくなってしまった。経済やビジネスに特化した専門性で、経営者層やビジネスマンの実需を握る日経新聞の特性が際立つ結果となっている。ただし、収益性や生産性に優れる一方で、財務面は朝日新聞などに見劣りする。これまでの資産の蓄積の差は大きいが、現状の優位性を保っていけば、その差は縮まっていくだろう。
営業努力も空しく部数減の産経
保守系新聞の代表として知られる産経新聞も、21年3月期の連結売上高は878億円となり、ついに1,000億円を割り込む結果となった。黒字は確保しているものの、前期比で60%以上の減益である。最終利益は6億円弱と少なく、朝日新聞のような繰延税金資産の取り崩しをしていれば、最終赤字になっていた。21年3月の朝刊発行部数は121万部、前年比で12万5,000部減である。
財務内容を見ると、一般企業との比較では相応の資産背景をもつといえるが、全国紙の新聞社と比較すると見劣りする。現預金は210億円を有するが、一方で300億円を超える借入金があり、自己資本比率は24%程度と脆弱だ。土地などを含む固定資産も416億円と、4,000億円台を誇る朝日新聞や日経新聞よりも1ケタ少ない。
21年7月には、購読契約時に制限額を超える高額商品を提供したことで、大阪府から景品表示法違反の措置命令を受けた後も、大阪本社の販売局が違法な商品提供を続けていたと発表した。19年3月に府内の系列販売店が家電製品などを顧客に提供したとして措置命令を受けていたが、その後も継続していたという。販売店172店のうち約47%の店舗で、提供商品の平均額が制限額を超えていた。新聞の部数減を食い止めるための涙ぐましい営業努力だが、なんとも哀れなエピソードである。ちなみに、実質的な親会社であるフジ・メディア・ホールディングスの業績も右肩下がりの状態だ。
(つづく)
【緒方 克美】
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