緊張下にある米中関係と改善に向けての日本の役割(前)
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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸
アメリカの「隠された中国依存」
西側諸国のコロナ混乱を尻目に、中国は2021年7月、共産党結党100周年を迎えた。
習近平氏は2013年に国家主席に就任したわけだが、そのときの最大の公約が「2020年までに貧困をなくす」であった。その公約を実現したわけで、次なる公約は「2035ビジョン」である。すなわち、2035年までに「経済倍増」を実現し、「社会主義国家の近代化を達成する」というわけだ。そのための具体的な目標も相次いで打ち出されている。こうした国内向け投資を通じて、「2028年までにアメリカを経済規模で追い抜く」(予定を7年前倒し)との見通しも大々的に宣伝している。このような中国による大胆な宣伝攻勢にはアメリカもたじたじとなっているようだ。
とくに、「習近平国家主席と個人的に最も親しい西側指導者だ」と自負し、自慢してきたバイデン大統領は「このままではインフラ投資や公共交通の分野でアメリカは中国に抜かれてしまう」と危機感を露わにするようになった。そのため、議会関係者との内部の会議では「急いで動かねば、中国においしいとこ取りされる」とまで発言している有り様である。
バイデン大統領は「価値観を共有する同盟国と連携して、中国への圧力を強める」との発言を繰り返しているが、実現は難しいだろう。ブリンケン国務長官もケリー特別代表も環境問題への対応では「中国の協力が必要」との立場を崩していない。実は、それ以外にもアメリカが中国との直接対決を回避しなければならない事情がある。
それはアメリカが中国から大量のレアアースを輸入しているという事実である。アメリカのエネルギーや自動車産業にとっては、ソーラー、風力はもちろん、EVにとっても中国からのレアアースは欠かせない。しかも、ミサイルや原潜など軍事関連にも中国産レアアースは不可欠となっている。
アメリカとすれば、こうした国家の安全保障上の、「隠された中国依存」という状態に手足を縛られているのである。そのため、バイデン大統領は就任早々、トランプ前大統領が禁止した中国製エネルギー配電システム機材の輸入を復活させた。また、山東省のエネルギー会社による米国内の石油、ガス油田の買収をも承認したのである。表の対中強硬姿勢とは対照的に裏では対中融和策に余念がない。
フランスを欧州最大の金融ハブに
バイデン政権の本音は「今の時点で中国と正面切ってことを構えるのは得策ではない」というもの。バイデン大統領の側近で国家安全保障担当補佐官のサリバン氏曰く「アメリカは国内問題をまず改善すべきである。国内を分断、分裂状態に陥れている人種や地域の不平等を克服し、機能不全になってしまった地域経済の回復に取り組むのが先決だ」。
確かに一理あるだろう。しかし、TPPへの再加入もためらうバイデン大統領を尻目に、習近平国家主席はRCEP加入をはたし、今ではTPPへの加入にも積極的な姿勢を見せるようになった。中国の巨大な国内市場をテコに世界最大の自由貿易圏を取り込もうとする戦略は注目に値する。
国境問題で対立し、戦火も交えたインドとの間でも、貿易量は増加の一途で、インドにとって中国は最大の貿易相手(2019年に759億ドルだったが、2020年には770億ドルへ拡大)となった。アメリカはインドを対中包囲網に引きずり込もうと画策を続けているが、思ったような成果は出ていない。
また、南シナ海での中国の動きをけん制するため、最新鋭の原子力潜水艦や軍艦を同海域に派遣したフランスであるが、マクロン大統領と習近平主席のトップ会談を通じて、気候変動やコロナ対策で協力することに合意したのみならず、両国が協力して中央ヨーロッパや東欧諸国の市場開発に当たることにもなった。
習近平国家主席曰く「フランスを欧州最大の金融ハブにしたい」。中国は国内市場を武器にフランスを取り込み、「中国とEUは世界の2大パワー」という新戦略を打ち出しつつあるわけだ。その背景には、フランスの石油メジャー「トタル」社がベトナム沖で油田開発に着手しようとしているため、ベトナムとフランスの共同事業を潰そうとする狙いも隠されていると思われる。実にしたたかな中国外交である。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。関連キーワード
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