2024年11月23日( 土 )

緊張下にある米中関係と改善に向けての日本の役割(中)

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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸

世界から愛され、信頼される中国に

上海 イメージ 中国政府は2015年に始めた「中国製造2025」や、2008年から実施している世界の頭脳を集めるための「1,000人計画」が海外での評判が悪く、中国批判の材料となっているため、「やり過ぎが失敗の原因だった」と受け止め、今後は「本音を隠し、静かに実を取る」という「あいまい路線」への方向転換をする模様である。「世界から愛され、信頼される中国」というイメージの売り込みに余念がない。

 とはいえ、アメリカにとっては中国の驚異的な経済発展や軍事力の増強には警戒心を抱かざるを得ない。いくらソフトパワーで武装したとしても、中国の追求する「新たな現実」の台頭を目の前にすれば、枕を高くして眠ることはできない。

 しかも、場合によっては「冷戦状態」が「熱戦事態」に急転換する恐れもあるからだ。こうした目前の緊張関係を有利に展開するため、アメリカ政府は中国に対する経済、プロパガンダ、そして軍事的封じ込め作戦を加速させている。トランプ前大統領の下では、アメリカが直面する「あらゆる問題の源泉は中国である」との一方的な政策が目立った。新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」や「中国ウイルス」と命名したのは、その典型であろう。

戦争こそ最大のビジネスチャンス

 アメリカの2021年会計年度の国防権限法によれば、対中関係の重点は経済に置かれているのが特徴である。予算の力点が置かれているのが「中国による産業スパイ活動やサイバー犯罪を阻止し、マネーロンダリングも予防する」こと。また「宇宙空間における競争優位性の確立」も同様の重点項目となっている。国防政策とはいうものの、こと対中政策に関しては経済的な側面が極めて大きなウエイトを占めているわけだ。要は、中国との冷戦を勝つためには、経済や金融面で優位に立つことが不可欠との認識に他ならない。問題は、そうした経済戦争が思わぬかたちで軍事的衝突に発展しかねないことである。

 そうした危惧の念をことあるごとに明らかにするのがキッシンジャー元国務長官に他ならない。97歳になったキッシンジャー氏であるが、「米中関係の手綱をうまくさばかなければ、世界全体に大きな災禍をもたらすことになる」と警鐘を鳴らすことに余念がない。

 曰く「アメリカにとって最大の課題は中国である。世界にとっても同様である。この中国問題を解決できなければ、リスクは全世界におよぶことになる。なぜなら、70年前と違い、我々の手中には核という強力な兵器が蓄積されているからだ。加えて、新たなハイテク兵器が目白押しである。しかも、人工知能(AI)の進化は凄まじい。人間の誤った判断をAIが訂正しようとして、人間に反旗を翻す可能性も否定できない。米中間の冷戦が熱戦にならないように真剣な取り組みが欠かせない。ひとたび熱戦になれば、人類の絶滅もあり得る」。 

 実際、アメリカの国防予算は年々増加しており、2021年は7,410億ドルで、これは中国の2,090億ドルの約3・5倍に匹敵する。その背景には政権に大きな影響力を持つ軍需産業の存在があることは論を待たない。彼らにとっては「戦争こそ最大のビジネスチャンス」というわけだ。

 トランプ前大統領に限らず、バイデン大統領までもが習近平国家主席やプーチン大統領をあからさまに非難する言動を繰り返しているが、これは名実ともにスーパーパワーであったときのアメリカでは見られなかった現象である。見方を変えれば、国際情勢が変化し、アメリカ一国主義が維持できなくなり、アメリカが自信を失い始めた表れともいえるだろう。

 そうであれば、今こそ米中の対話と信頼関係の構築が求められると言わざるを得ない。そうした必要性を訴えるキッシンジャー的バランス感覚は日本にとっても大いに参考にすべきである。なぜなら、日本にとってアメリカは安全保障の面では最大の同盟国であるが、経済通商の面では中国が最大のパートナーであるからだ。アメリカとも中国ともバランスのとれた関係を維持、発展させなければ、日本の未来はない。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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