【劇団わらび座山川社長】危機突破の70周年に!
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(株)わらび座 代表取締役社長 山川 龍巳 氏
今年で70周年を迎えた1951年創業の劇団わらび座(秋田県)。コロナ禍という危機を突破するとのわらび座の強い決意について、山川龍巳社長から寄稿していただいたので掲載する。
コロナウイルス感染症のなかで、三密は人間にとって不可欠なものであることを再認識した。私たちの文化芸術、とくに役者とお客さまが1つとなって共感し合う舞台芸術はそれが命である。私たちが創造の根底に据えている民俗芸能や祭りは、それ以外何があるのかというくらい密の塊である。これをやってはいけないというのだから、魂の翼を奪われているようなものだ。「祭り命!」の博多っ子をはじめ、全国の祭り好きが我慢の2年目を迎えている。
劇団や舞台芸術界で創立70年の歴史は決して短くはない。東京・新宿において3人で始まったわらび座は、当時「海つばめ」と名乗っていた。創設者の原太郎は「アクセサリーとしての文化芸術の創造ではなく、「生活必需品としての文化芸術の創造」とよく語っていた。
9名のパフォーマーが秋田にきて、「稲刈りや田植えのお手伝いを懸命にしますので、時々歌や踊りを教えてください」と始まったのだと、当時の先輩たちがよく語っていた。米どころ秋田県に拠を構えたのも、それらの考え方と無関係ではないのだ。
コロナウイルスで全国公演のキャンセルが続出し、役者や舞台スタッフが田植えや野菜の植え付けなどの「援農」ボランティア活動を1カ月から2カ月実施した。彼らはわらび座の先輩たちが大事にしていた仕事の出発点を体験し、自らを「芸農人」と呼んでいる。コロナウイルスのなかでこれらを体験したことは大きな成果だった。生活必需品である文化の創造の根源にいくらかでも触れることができたことをみんな喜んでいる。
収まらないコロナウイル拡大のなかで、70周年イベントをいつ中止にするかと内心穏やかでない日々を過ごした。
昨年70周年の灯が消えそうだという必死の思いを最初に受け止め、全国にデジタル配信で口火を切っていただいたのはデータ・マックスだった。その後、地元紙の『秋田魁新報』をはじめ、各メディアに一斉に報道していただいた。
昨年の3月中旬から4月30日までの間に1億円以上の支援金が集まった。70年の伝統の力をこれほど感じたことはなかった。秋ごろまでには収まるのではないかと考えていたが、大間違いだった。70周年は「一番困難なときに一番大事なことを考えていた」という周年行事にしなければと考えた。
「70周年の危機を突破する覚悟の舞台をつくってください」と舞台創造の皆さんにお願いした。いろいろと課題はあったものの、役者総出演の舞台は圧巻だった。この危機を共有している力が、舞台から飛び出してきた。わらび座はこれまで100本のオリジナルミュージカルを創作してきた。1作品につき、約20曲のミュージカルナンバーが歌われてきたのだから2,000曲は下らない。1部は、このなかから16曲が選ばれた。歌、音楽の力は心の深いところに力を与えてくれる。別の世界から力が注入されるような不思議な感覚をもった。
2部は、わらび座がベースとしてきた民俗芸能を舞台化した。アレンジから創造へという難しい課題をこの分野のスタッフは抱えているが、果敢に挑戦した。何よりもそれを感じさせないような熱気が伝わってきた。「チーム一丸となっている美しさを感じた」という感想が多く聞かれた。
伝統は大事であるが、もっと大事なのは「今」であり「未来」を生きることである。そのときに伝統の何が力になるのか、大切なのかを見抜く力は、現代という社会をおもしろく、深く誠実に生き抜かないと見えないのだと思う。
多くの方が指摘しているように、コロナウイルスは人間社会のひずみを地球規模で暴き出したと思う。コロナウイルスは人間の怖しいほどの強欲なグローバル世界に警鐘を鳴らしたと思う。
世界は混乱に混乱を重ねているように見える。時代の大きな転換期を迎えているのか、絶望に突き進んでいるのかであるが、差別と格差、民族問題、宗教問題、環境問題、資源問題など、とにかくこれまでの視点や考え方では解決できそうもない問題が山積みである。
舞台芸術に限らず、すべての社会システムを含めて、人間の英知が問われていて、それは新しい創造的課題でもあると思う。未来をどう構築して行くのか。そのときに必要とされるのは、アートの力であると指摘する本にも出会い学んだ。そのクリエイティブな才能が私たちの創造に最も必要となっている。その才能とそれを支える経済力の不足が頭の痛いところである。
それ以前に私たちわらび座は、継続の危機という現状の突破が急務である。70年の歴史のなかで何度も危機はあったのだが、このコロナウイルスだけは最大の危機といえそうである。この仕事が必要とされている限り、この危機は突破できると信じている。それを支えてくれる人たちと一緒に乗り越えて行きたいと思っている。
■劇団わらび座
秋田県仙北市田沢湖卒田字早稲田430
TEL:0187-44-3311
E-mail:info@warabi.or.jp関連キーワード
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