2024年11月23日( 土 )

米中対立が深刻化 最悪のシナリオを避ける方策は?(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸

 アフガニスタンでは旧支配勢力だったタリバンが首都カブールを制圧。これまで日本を含む各国がアフガン復興支援で投じた莫大な金額は水の泡と消えた。今後は台湾を舞台に、アメリカのバイデン政権は同じことを繰り返そうとしているようだ。

アフガニスタンは「第二のベトナム」

 アフガニスタンでのアメリカの関与は「第二のベトナム」の様相を呈している。タリバンによる支配地域の急拡大によって、首都カブールのアメリカ大使館員の撤退を行うために、アメリカ政府は一度引き上げた部隊を再度投入せざるを得ない状況になった。アメリカ大使館員らは国外脱出のため、カブール空港に殺到している。首都陥落は時間の問題とみられている。まさに「サイゴン陥落」の二の舞だ。

 2001年12月、アフガニスタンのカブールでアメリカ主導の暫定行政機構の発足式典が開催された折には、アメリカの圧倒的な軍事力によりタリバンは駆逐され、新生アフガニスタンの前途が祝われた。あれから20年。アフガニスタンは期待された天然資源の開発が進まず、アメリカの石油大手ユノカルのコンサルタントから首相に抜擢されたカルザイ氏は利権と汚職にまみれ、国民の支持を失った。

 そして、それがタリバンの復活をもたらすことになり、アメリカ軍の指導で訓練を受けてきたはずの政府軍のあまりの弱体ぶりを白日の下に晒したのである。アメリカが提供した武器や弾薬は横流しされ、軍事訓練も参加者の水増しで経費だけが膨らむというザル状態であった。これではタリバンとの戦闘は負け戦にならざるを得なかった。当然の結末と言わざるを得ない。

 残念ながら、日本では小泉政権時代にブッシュ大統領との蜜月関係を背景に、アフガン復興支援に巨額の税金を投入したことへの評価も反省もないまま、今日に至っている。しかも、アメリカのバイデン政権は同じ過ちを繰り返そうとしている。その状況に気付いている日本人は少ない。

 その舞台は台湾にほかならない。バイデン大統領の本心は不明だが、彼の取り巻きは中国との戦争を本気で願っているようだ。なぜなら、中国の軍事的介入を招くことが確実な「台湾関与」を次々と展開しているからである。しかも、これまでと同様に日本政府を巻き込んでのこと。毎度のことながら、アメリカにとって日本は「打ち出の小槌」というわけだ。

台湾を舞台に米中の衝突も

台湾 台北 イメージ トランプの後を引き継いだバイデン大統領であるが、対中政策は漂流中である。それを象徴的に示すのが、台湾の蔡英文総統を今年末に予定されている「民主主義サミット」に正式に招待する計画を進めていることだ。もし、これが実現すれば、台湾は国家として認知されることになり、これまでの国際会議では「中華台北」と呼ばれていたものが、「台湾」となるからである。

 これは中国が容認してきた「Chinese Taipei」をご破算にするわけで、中国にとっては「絶対に認められない」ことであり、まさに「戦争に値する」ことになるだろう。なぜ、中国の強硬な反応が避けられないとわかっているにもかかわらず、バイデン政権はそのような対中強硬策を選択するのであろうか。どこまで勝ち目があると踏んでいるのだろうか。アフガンの場合と同じように、戦費や後方支援は日本にツケを回そうという魂胆なのだろうか。

 そもそもアメリカにとって、第二次世界大戦後以降、海外での戦争に関与しなかった年は1年もなかったことを振り返れば、「テロとの戦い」であろうが、「自由と民主主義を守るため」であろうが、最大の利益を享受してきたのが「戦争ビジネス」であることは明らかである。いわゆる「軍需産業」にほかならない。歴代のアメリカ政権にとって、軍需産業の支援や関与なくして国際関係も外交も成り立たなかった。

 アフガニスタンでのタリバン相手の戦争と違い、台湾を舞台に戦えば中国が相手の戦争になることは必至である。バイデン政権下で新たに海軍長官に任命されたキューバ生まれのカルロス・デル・トロ氏は「対中戦略を最重視する。台湾防衛に最優先で取り組む」と証言してきた。問題は、なぜアメリカはそこまで対中敵視政策をとるのかということだ。

 トランプ政権下でもそうであったが、アメリカにとって成長を続ける中国は「政治・経済・軍事・技術など、あらゆる側面で最大の脅威、すなわち敵に変身しつつある」と映っているのである。「超大国アメリカ」の屋台骨を揺るがす恐れを感じているのであろうか。思い起こせば、バイデン大統領は副大統領のころから習近平氏と長い時間をともにし、「習近平国家主席と最も親しい外国の指導者は自分だ」とことあるごとに吹聴していた。それが豹変してしまった理由は何なのか。

 その答えはアメリカの国内経済事情に隠されている。と同時に、中国の国内問題とも密接に絡まっていることは間違いない。この点を冷静かつ正確に把握しておく必要があるだろう。そうしなければ、最悪のシナリオを回避する手立てを見出すことができないからだ。世界最大と第2位の経済大国が戦争することのリスクは想像するに余りある。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

(後)

関連記事